みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 日本人から見ると、フィリピンの人はとても表情が豊かだと感じることがあります。中でも眉を大きく上げ下げしたり、片方の眉だけを上下に動かしたりする使い方はなかなか真似のできるものではありません。子どものころから使い慣れているからこそ、眉を大きく動かすための表情筋が発達するのかもしれません。

 

 

 日本では心配事があるときは「眉を曇らせる」、憂いが無くなると「眉が晴れる」などの言い方をしますね。フィリピンでも心配げに眉を寄せることは “Salungat ang kilay”(眉が逆向きになる)、眉間にしわを寄せて怒ることは “Salubong ang kilay”(眉が向い合せになる)などと言います。また日本では「眉に火がつく」と言うと目前に危険が差し迫っている状態のことを指しますが、フィリピンでは「眉を燃やす(nagsusunog ng kilay)」というと眉に火がつくほど一生懸命勉強することを指します。昔はランプに火を灯して勉強していたでしょうから、眉に火が付きそうになっても気がつかないほど必死で勉強する、というイメージなのでしょう。英語でも夜遅くまで必死で勉強することを “burn the midnight oil”(深夜に油を燃やす)と言いますが、フィリピンでは眉まで燃やしてしまうところがちょっと滑稽ですね。

 

 フィリピンにしばらく住んで顔見知りができてくると、ちょっと挨拶を交わすことなどがあると思います。そんなとき日本人は会釈をしますが、フィリピンの人は笑顔で両眉を上げます。両眉を上げると自然と顎が上がり頭全体を若干後ろにそらすような形になります。つまり日本人は挨拶のときに頭を下げ、フィリピン人はあごをしゃくり上げるという全く逆の動作になるのです。また日本人は肯定の返事をするときも「はい」とか「うん」と言いながら、まばたきをしたり目を伏せたりしながら少し頭を下げますが、フィリピン人は逆に「ン・ン」と言いながら目を見開きながら両眉を上げ下げします。日本人から見ると、なんとなく軽蔑されたように感じるかもしれませんが、これらは普通の肯定表現なのです。それぞれの文化でジェスチャーや顔の表現は異なる意味を持つことがあるので気を付ける必要があります。

 

 

 フィリピンでは誰かの行ないが疑わしいときや非難したくなる場合には “Nakakataas ng kilay”(眉が上がる)という言い方をします。疑わしい話を聞くと、自然と片方の眉が上がってしまうことから来た言葉だと思われます。たとえば上院の委員会でフィリピン国家慈善宝くじ協会(PCSO)の不正疑惑に関する調査が行われていますが、その中でPCSOが提出した当選者リストの中に、2023年7月から12月の間、37回にわたり、同一人物に1回につき225,000ペソ(約60万円)が当たっていたことが記録されていました。

 

 

 このことについてトルフォ上院議員は “medyo nakakataas ng kilay”「ちょっと眉が上がる」つまり疑わしいことだ、と発言しています。これに対してマルコス現大統領の支持者でPCSO長官のロブレス氏は、これはジャックポット(高額賞金のくじ)ではないし、当選した人達が特定の個人に依頼して受け取ってもらっている可能性もある、と説明し、ロトくじの結果を操作することは不可能だと言っています。

 

 

 

 確かに1回あたりの賞金は60万円とは言え、総額2000万円を超える額を同一人物が受け取っているとはどういうことなのでしょうか。日本では疑わしいことを「眉に唾をつける」とか「眉つば」という表現を使いますが、これは眉につばをつけるとキツネやタヌキに化かされないという俗信から来ているそうです。フィリピンにはキツネもタヌキもいないはずなのに、なんだかキツネにつままれたように感じてしまいますね。

 

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。

Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia

 

 

 

 

 

(初出まにら新聞2024年4月20日号)