みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 前回は100にちなんだ話をいくつか紹介し、100ペソ札について取り上げました。今回はフィリピンの紙幣について見ていきましょう

 

Salaping Papel (紙幣)

 紙幣、つまり紙のお金はsalaping papelと言います。フィリピン語で一般的に「お金」はperaと言い、給料日前になると “Walang pera!”(お金がない) “Ubos na ang pera!”(もうお金を使い果たしてしまった)といった言い方を耳にします。“ubos”というのは、元々あったものを使い果たしたり、食べつくしたりした、という意味です。peraもsalapiもほぼ同じ意味ですが、salapiの方が若干フォーマルです。 “Walang pera”の代わりに “Walang salapi”でも間違いではないものの、普通は使いません。そして「通貨」つまり流通している「硬貨」や「紙幣」を表す場合はsalapiを使う傾向があります。papelは「紙」のことですから、salaping papelは「紙のお金」つまり「紙幣」という意味です。

 

ポリマー紙幣の導入

 2022年にはフィリピンで初のポリマー紙幣である1000ペソ札が発行されました。フィリピンの国鳥であるフィリピン・ワシが描かれているこのお札は現時点で既にかなり流通してきているので、手にしたことのある方も多いでしょう。2024年12月からは、まだ数は少ないものの、100ペソ札や500ペソ札も発行され始めました。これまでフィリピンの紙幣には歴史上の人物や英雄とされる人物が描かれてきましたが、ポリマー紙幣にはビサヤン・レパードキャット(ベンガルヤマネコ、50ペソ)、パラワン・コクジャク(100ペソ)やビサヤン・スポテッドディア(500ペソ)といったフィリピン固有の動物や植物が表側に配され、裏にはフィリピンの景勝地が描かれています。

 

(Bangko Sentral ng Pilipinas)

 


 ポリマーを使った紙幣は、世界的に見ると部分的な使用も含め20カ国が採用しています。紙よりも長持ちすることや、偽造しにくいことから導入する国が増えているようです。日本でも昨年7月に新紙幣が発行されましたが、こちらはこれまでと同様、ミツマタやマニラ麻(アバカ)などを使用して作られています。アバカはフィリピンやエクアドルから輸入されたものです。

 日本のお札をポケットに入れたまま洗濯しても、乾かせば問題なく使えるのも、実はアバカの耐水性のおかげです。日本の紙幣には高度な印刷技術が使われているので偽造しにくいことや、ポリマーに変えたときに自動販売機やATMにおよぼす影響を考えると、現時点でポリマーにする必要はないと判断されたそうです。日本ではフィリピンから輸入したアバカが使用されているのに、フィリピンではポリマー紙幣に代わっていくというのも、ちょっと皮肉なことですね。

 

旧紙幣の廃止?

 日本では新紙幣が発行されても、一度日本銀行券として発行された紙幣は無期限に使用できると日本銀行法で定められていて、旧紙幣が使えなくなることはありません。しかしフィリピンの場合は違います。廃貨までに数年間の準備期間が設けられてはいるものの、定められた期間を過ぎてしまうと使用することも、銀行で交換することもできなくなってしまうのです。つまり、たとえ親や祖父母がクローゼットや床下に現金を貯めていたのが後からわかったとしても、あるいは昔フィリピンに来たことがあり、余ったフィリピンペソを日本に持って帰ったものが後から見つかったとしても、すでに廃貨されていたら、それはただの紙切れというわけです。

 2018年には1985年から使われてきたシリーズが廃貨となりました。廃貨に至るまでに7年間もの準備期間があったそうですが、実際には直前まで旧紙幣が流通していたので、買い物に行って旧紙幣のお釣りを手渡されると、期限までに使わなくてはと、ババ抜きのババを受け取ったような焦りを感じたものです。今回のポリマーシリーズの発行後、まだ旧紙幣の廃貨計画は発表されてはいませんが、いつかは廃貨になるはずです。今後の情報に気をつけておきたいものですね。

 

 

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大(現大阪大外国語学部)フィリピン語科卒。最近の楽しみは出張をより快適にするアイテムを集めること。

Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia