みなさんこんにちは!Kumusta kayo? 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3月に「バヤニハン法」という法律が施行されました。この法律は正式には共和国法11469号「バヤニハン・トゥ・ヒール・アズ・ワン(一致して癒されるためのバヤニハン法)」という長い名がついています。トゥ・ヒール・アズ・ワン(To heal as one)は英語で、昨年フィリピンで開催された東南アジア大会のテーマ “We win as One”(一致団結して勝利する)を意識したものと思われますが、「バヤニハン」はフィリピンの伝統的な概念で「共同作業、助け合い」のこと。和洋折衷ならず比英折衷とでも言うべき構成となっています。

 

 

 本来「バヤニハン」は、村の中での助け合いを意味する言葉です。竹やニッパヤシなどで作られた家(バハイ・クボ)を、村の人たちが集まって持ち上げ、家ごと移動して引っ越しするといった協同作業が典型的な例とされています。「バヤニハン」という言葉の語根はbayani(バヤニ)で意味は「英雄・ヒーロー」です。”~an””~han”というのは「お互いに~しあう」という意味なので、つまり「お互いに英雄になりあうこと」それが「バヤニハン」の本来の意味です。そしてこの「バヤニ」という言葉はbayan(バヤン)から来ています。「バヤン」は、人々が集まって住む集落や町、ひいては「郷里」や「国」や、そこに住む人々という意味があります。ですから町の人達や国の人達の共同の利益のために働く人が「バヤニ」であって、皆がお互いのために協力しあうことが「バヤニハン」なのです。

 

 

 「バヤニハン」は大切な概念なので、現政権はこの名称を使うことによって、国民を一致団結して協力させようと考えたのでしょう。ところが実際には、この法律の主旨は、医療物資調達などに関する大統領の決裁権限を拡大することに加え、「コミュニティー防疫」を守らなかった者や、政府の方針に反対する者に対する罰金刑や禁固刑も定められていました。実際、支援物資が届かず困っている人のために支援物資を独自に集めて届けようと活動した人達が規制に違反したとして逮捕されたこともありました。「バヤニハン」と言いながらも実際は国民の行動を厳しく規制することが目的になってしまっていた感があります。

 

 

 フィリピンでは当初、海外の会議や学会などに参加していた人たちが帰国後に発症した輸入例から、次第に都市部の密集地などでの市中感染へと拡大しました。その中で行われた厳しいロックダウンは、感染の起こりやすい環境を減らしたことで、感染爆発や医療崩壊を防ぐ上では一定の効果はあったと言えますが、長期に渡るロックダウンにも関わらず感染者数は高止まり状態のまま、段階的緩和に踏み切られることになりました。これからは新型コロナウイルスとともに生きる時代となっていく上で、規制されるからマスクをする、誰も見てなければしなくてもいい、という現状から、一人一人が、自分がまず感染しないことで、家族や友人や職場の人々に感染させないという意識を持っていくことが必要なのではないでしょうか。それこそが新型コロナの時代における「バヤニハン」の精神だと言えるでしょう。

 

 

 3月25日に発効した「バヤニハン法」は3カ月後の6月25日をもって期限切れとなりましたが、新たに「バヤニハン2」という法律を作ることも検討されているそうです。感染を抑えながら経済活動を回していくための試行錯誤は、まだしばらく続きそうです。

 

 

文:デセンブラーナ悦子
日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人の夫と1992年に結婚、以後マニラに暮らす。趣味はダンスだが、最近は時間が取れないのが悩み。