みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? フィリピンは「常夏の国」という印象を持つ人が多いと思います。確かに日本から見ると年間通して30℃前後なので常夏と感じるかもしれませんが、実際にはずっと夏というわけではありません。1月から2月は比較的涼しく過ごしやすい、と思いきや3月に入ると一気に気温が上がり “Tag-init na!” (夏が来た!)と感じる日が多くなります。tag-は「季節」や「時期」を表す接辞で、initは「暑い」「暑さ」を表す言葉なので、tag-initは「暑い季節・夏」という意味になります。フィリピンの人たちは3~5月頃を英語でsummerと表現することがあるので、日本のように夏を7~8月だと思っていると解釈にズレが生じることがあります。

 

 

 フィリピンの季節は大きく乾季(tagtuyo)と雨季(tag-ulan)に分けられます。マニラを含むルソン島の西側やミンドロ島、パナイ島の南西部は乾季と雨季が比較的はっきり分かれており、大体12~5月が乾季、6~11月頃が雨季にあたります。その他の地域は乾季と雨季の区別はあまりありませんが、それでも2~5月は雨はそれほど降りません。

 フィリピンの気候に大きな影響を与えているのが北東季節風(amihan)と南西季節風(habagat)です。11月から3月頃までは中国大陸から日本を越えて太平洋側に向かって強い偏西風が吹き、それが太平洋上で今度は東からの貿易風に乗って角度を変え、フィリピンの北東から南西の方向へ風が吹きます。これが北東季節風です。このためフィリピンでも12月から2月にかけて気温が下がり、夜間には20℃前後まで下がることがあります。この時期はtaglamig(「涼しい季節」)と呼ばれます。3月になると北東季節風が緩み始め日照時間も長くなってくるので、4~5月には37~38℃前後まで気温が上がります。つまり、フィリピンでは乾季(tagtuyo)の中に涼しい季節(taglamig)と暑い季節(tag-init)があるというわけです。

 

 6月頃になるとフィリピンの南西、インド洋の方からモンスーンの風、南西季節風が吹き始め、暖かく湿った空気が流れ込むためフィリピンの特に西側の地域を中心に雨が多くなります。これが雨季(tag-ulan)です。海水温が上昇して熱帯性低気圧、台風が発生するのもこの時期です。

 

 

 さて、2023年の4月ごろからエルニーニョ現象が続いていますが、その影響で現在干ばつが発生している地域があります。フィリピン語で干ばつはtagtuyotと呼ばれます。ここであれっ? と思った方もいるのではないでしょうか。乾季はtagtuyo、干ばつはtagtuyot、そっくりに見えませんか? フィリピン語でtuyoは「乾いた」という意味ですが、tuyotは「非常に乾燥してカラカラの」という意味です。植物などが乾きすぎてしおれてしまうことにも同じ言葉を使います。最後にtが付く発音も意味も異なる別の言葉ですが、同じ語源から来たのだろうと想像できます。

 

 

 エルニーニョ現象はペルー沖の海面水温が高い状態が続くことで、この状態のときは、太平洋高気圧が発達しにくいため、日本では夏に低温多雨、冬は高温少雨の傾向があると言われます。フィリピンでは逆に、近海の海面水温が比較的低いので積乱雲が発生しにくく、また台風も通常よりも離れた場所で発生して直撃しにくいので降雨量が少なくなります。このため既に干ばつによる農作物への被害が報告されています。また、PAGASA(フィリピン大気地球物理天文局、気象庁)は今年の4~5月にかけて干ばつ地域が拡大する可能性があると発表しており、水不足も懸念されます。またエルニーニョの終息後は平常の状態に戻るという見方と、その後ラニーニャ現象へ移行するという見方もあるようです。ラニーニャになると水不足は解消されても大雨の影響が心配です。今後の予報も注視していきたいですね。

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。

Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia

 

 

 

 

(初出まにら新聞2024年3月16日号)