
みなさん、こんにちは。umusta kayo? 前回はシニガンやアドボなど、フィリピンの家庭で親しまれているおかずについて書きました。フィリピンでは長粒米のごはんにスープをかけながら食べることが多いので、シニガンやティノーラなどの汁物や、アドボなどの煮込み料理がフィリピン料理の代表的存在です。しかし、おかずにもなるけれど酒の肴(さかな)、おつまみとしても楽しめる料理もいろいろあります。
日本でも「おつまみ」と言うように、お酒を飲む人は飲みながらつまんでパクッと食べることができる物を好むためか、フィリピン語で「おつまみ」はpulutan(プルータン)と言います。Pulutanとは「つまんで拾う」という意味のpulotに接辞-anが付いたものです。たとえ手でつまんで食べなくとも、細かく切ってあり、フォーク1本で気軽に食べられるものが好まれる傾向があります。
シシグ(sisig)
フィリピンで「酒の肴」として人気のある料理の1つにシシグがあります。シシグはパンパンガ地方の料理で、古くは1732年の『スペイン語・パンパンガ語、パンパンガ語・スペイン語辞書』に記録されているそうです。
本来シシグは若いパパイヤの実やグアバの実などを塩、コショウ、ニンニク、酢であえたサラダのことで、sisigを活用したmanisigという言葉は「グリーンマンゴーを酢につけて食べる」という意味なのだそう。また、豚肉や魚などをスパイスや酢であえた物のことも指すそうです。そう聞くと、元々シシグと呼ばれていたものは、次に解説するキニラウに近いんじゃないかと思った方もいるのではないでしょうか。実は、今シシグと呼ばれているのは、1970年代にパンパンガ州アンヘレス市のルシア・クナナンという女性が考案した料理です。当時クラークにあった米軍基地から廃棄された豚の頭を茹でて食べられる部分を刻んで焼き、最後に玉ねぎやスパイスを加えて鉄のステーキ皿で出したのが始まりだそうです。

キニラウ (kinilaw)
キニラウもシシグ同様、人気のあるおつまみです。キニラウは生の魚を酢や柑橘類、酸味のある果物でしめて、玉ねぎやショウガ、青唐辛子などでマリネしたもの。キラウィン(kilawin)とも呼ばれます。
語根はkilaw(キラウ)で、hilaw(生)と同じ語源から来たと考えられます。これを前回も出てきた接辞-inで活用すると「ある特定の調理法で調理したもの」という意味になるので、kinilawまたはkilawinは「生で食べる料理」いう意味になるわけです。こちらもシシグ同様、歴史は古く、1613年の『タガログ語辞典』にもcqinicqinilao(キニキラオ)、cquilao(キラオ)として掲載され、「ビサヤ語の『生で食べる』という動詞」と説明されているそうです。
キニラウは、同じくスペイン領だった南米ペルーの魚介のマリネ「セビーチェ」とよく似ているので、スペインがペルーから持ち込んだのではないかと言われることもあります。しかし、スペイン人がフィリピンに渡来する以前の10~13世紀のものとされるミンダナオ島ブトゥアンの遺跡から、魚の骨とタボンタボンの実(和名マキタノキ)が一緒に発見されていることから、そのころから同様の調理法が存在していて、セビーチェとは別に発展してきたのだろうということが推察できます。

ルソン島のタガログ語圏では炭火で焼いた焼肉をihawと呼び、接辞-inを付けてinihaw(イニハウ)(=炭火で焼いたもの)と呼びますが、同じ物をビサヤ地方ではsugba(スグバ)またはsinugba(シヌグバ)と呼びます。このシヌグバ、特に豚肉を焼いたものを魚のキニラウに入れて一緒にマリネしたものはsinuglaw(シヌグラウ)と呼ばれます。sinugbaのsinugとkinilawのlawを合わせた造語です。シヌグラウがいつから食べられるようになったのか、記録は残っていないようですが、筆者の記憶では1990年代後半ぐらいからレストランなどで一般的に提供されるようになってきたように思います。

Sinugbang Baboy
(Wikimedia Commons Public Domain Obsidian Soul)
このように料理も少しずつ変化し、組み合わさり、それとともに新たな言葉も生まれてくるのも興味深いところですね。

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大(現大阪大外国語学部)フィリピン語科卒。最近の楽しみは出張をより快適にするアイテムを集めること。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia