「1時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。3日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。8日間、幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。永遠に幸せになりたかったら釣りを覚えなさい」 ということわざが中国にあり、ニュージーランドでは「最良の仕事の日よりも最悪の釣りの日の方が、まだマシである」と言われるらしい。
それほどに人を魅了する釣り。筆者もかつては釣りが好きで好きで仕方がなかったのだが、最後に釣りをしたのがいつだったか思い出せないくらい、釣りとは疎遠になってしまった。趣味がない人生になってしまっているのを懸念し、2023年の年の瀬に思い立って、再び釣りをやってみた。
都会で楽しむ釣り
いざ釣りに行こうと思っても、ここはマニラ。どこに行けばいいかわからない。車もないので、できればマカティから公共交通機関やタクシーでサクッと行けるところがいい。そんなわがままをかなえてくれる釣り場があるものかと思っていたら、あった。首都圏マニラ市ロハス通りのフィリピン文化センター(CCP)のすぐそば、ハーバースクエア(Harbour Square)というスターバックスもあればジョリビーもある飲食店が立ち並ぶ一帯がマニラ湾に面し、地元釣り師の間では人気のスポットとなっているのだ。
12月初旬のある日、午前11時頃に行ってみたところ、10人ほどの釣り人がいた。どんな魚が釣れるのか聞いてみると、フィリピンの食卓でおなじみのバグス(ミルクフィッシュ)、ティラピアにトレバリー(シマアジ)、スレッドフィンサーモンなどが釣れるのだそう。
朝の7時半から釣りをしているというおじさんは「今日は2匹のプラプラが釣れた」という。「ラプラプ?(ハタ科の魚)」と聞き返すと、「いや、プラプラ。プラスチック、プラスチック」。プラスチックの袋が2回掛かってきたという意味だった。ゴミは海に捨てず、持ち帰ることを徹底したいものだ。
地元の釣り師との交流
地元の釣り師によると、バグスを釣るならエサはパン、ティラピアならミミズがいいのだそう。今日は皆さん疑似餌(ルアー)を投げて大物を狙っている。私はすっかりミミズなど生きた釣りえさを触ることができなくなってしまったので、マカティのウォルターマートのスーパーで100グラム約80ペソのむきエビを買ってきた。
準備をしているときにショックなことがあった。釣り糸を結ぶとき、老眼が進んでいることを思い知らされたのである。気を取り直して、おもりと釣り針とえさのシンプルな仕掛けをつくる。15メートルほど投げ、置き竿にした竿の先を見ながら、のんびりと待つ。
地元の釣り師との会話も楽しい。サウジアラビアで30年OFWとして働いて5年ほどに前に帰国、今は毎日釣りに来るという人。日本メーカーの釣り具について熱く語る人。これまで釣った魚の写真や動画をスマホで見せてくれる人。今度、ボートで沖に釣りに行こうと誘ってくれる人。地元の皆さんは、釣った魚はキャッチ・アンド・リリースではなく、釣ったら食べるのが信条である。
ビギナーズラック?
私の竿先に1度ブルッと震えるアタリがあったが、それから1時間経っても何もなし。干潮のせいか、周りの人も釣れていない。今日はこれでやめ。昔は1日中釣りをしていたが、今はそのような根気はない。久しぶりに釣りをする人間が初めて来てバカスカ釣れるほど、マニラ湾の魚はお人好しではないのだ。釣れなくてもよし、釣れればなお良し。久しぶりに釣りを満喫したということで十分。このように自分に言い聞かせてみたものの、帰路では仕掛けとエサについていろいろ思いを巡らせ、リベンジする気満々となっていた。やはり釣りは底なし沼である。
釣りの経験者も初心者も、マニラで気軽に釣りをしてみたいなら、このハーバースクエアはおすすめ。海沿いの遊歩道のような場所で足場もよく、ファミリーで来ても楽しめる釣り場である。(T)
(初出まにら新聞2023年12月9日号)