カルチャースクール体験記!
By 仮面ライター 703号
 
皆さんは、Craft MNLというスクールをご存じだろうか? 私は全く知らなかったが、今回そこでマニラの若者に混じってアフター6のカルチャースクールに行くことになった。

s-イラスト、竹に文字を彫る


s-文字と竹の板
場所はマカティ市パサイロード沿いにあるLanguage Internationalの入っているビルの3階。今まで知らなかったが手工芸から園芸、独自のアートまで幅広いラインナップの講座を取り揃えている。受けた講座は「スーラット・マンヤン(Sulat Mangyan)」。たいていの方は「何それ?」という感じだろう。タガログ語でスーラットは「書く」、「マンヤン」はミンドロ島の先住民で、スーラット・マンヤンとはマンヤンに伝わる古代文字を意味する。つまり、この講座はミンドロ島の古代文字を学んで書いてみよう!というもの。
ミンドロ島には今もマンヤンが使った独自のメールシステムがあるという。小規模な集落内に限ってのことだろうが、誰かに手紙を届けたいときにそれを紙ではなく竹の棒、もしくは板にマンヤン文字を彫り、宛先は例えば「滝の近くに住んでる誰それ」とする。そしてそれを郵便局ではなく、道に置く。それを見つけた人が滝の方に行くなら、それを届けてくれる。滝まで行かないけど途中まで行くよということなら、途中まで運んでくれてそこでまた道に置く。それを拾った人がまた近くまで運ぶという繰り返しだ。いつ着くのかわからないが、秒単位で情報が世界を駆け巡る現代にそんなシステムが残っていることに興味を覚えた。
事の起こりは、英語の先生との会話から。国立博物館で見た「バイバイイン」といわれるフィリピンの古代文字が逆ハート形で可愛い、と言ったことをしっかり覚えてくれていた先生が、フィリピンの古代文字に興味があるなら面白い講座を見つけたから行かないかと誘ってくれた。
さて当日、教室は楕円のテーブルの周りに椅子が10脚ほどと、あとはホワイトボードだけという、日本と大差ないシンプルなもの。フィリピンタイムで30分ほど遅れて始まるが、「トラフィック」の一言でみんな気にしない。
先ずは自己紹介から。メンバーはデザインをやっている20代前半のさわやか青年、タトゥーの入った腕がたくましいが笑顔のかわいい男性、中国系のOLさん、アーティストのおにいさん、そこに英語の先生と私。そして講師が竹笛を吹き祈りを捧げる中、みんなで講座がうまくいくよう祈る。
講師の言ったことで心に残っているのは、今フィリピンでは英語が流通しているけど、それってどうなの? 誰に都合がいいの? という疑問を投げかけたこと。確かにOFW(海外出稼ぎ労働者)にはいいかもしれないが、彼の意見では結局金持ちのためにしかなってないのではないかと…。
例えば年を取っているということを英語では「Old」、タガログ語では「マタンダ(Matanda)」を使う。「Old」には「年を取った」という他に「古い」の意味もあるが、タガログ語では「Matanda」の語幹のtandaは「知識が豊富な」という意味をもち、つまりフィリピンでは老人とは古い人ではなく、経験と知識を積んだ人という意味なんだという話に感動。老人を大切にする国は呼び名も深い意味をもつ。老人に対して「Old」というのと、「マタンダ」というのをイコールで結ぶことはできないのだ。
講座は全部で3時間あり、そのほとんどがレクチャーでその後簡単な単語や自分の名前などを書いてみるという内容。マンヤンの言葉はひらがなやカタカナと同じ表音文字なので、文字表(Script List)をみれば、どんな言葉もすぐに表記できるようになる。竹に彫るため文字は曲線がほとんどなく、彫りやすい直線の組み合わせで構成されている。
これまでフィリピンの古代文字はバイバイインかと思っていたが、古代文字も地域や時代でかなりの種類があるそうだ。前に国立博物館で見たバイバイインは逆ハート形など曲線が多かったが、粘土などやわらかいものに書いていたのだろうか。興味深い。
講座は人数も少ないため、みんな自由に質問や発言をして和気あいあいとした雰囲気。講座の集大成は、白い紙に筆で書道のようにスーラット・マンヤンで好きな言葉と自分の名前を書いて記念撮影をした。
最後は講師が教えてくれたミンドロ地方のあいさつで参加者一人一人と向かい合う。一対一で向かい合い両手で相手の手を挟み込むようにする。手と手が交互に重なるが、それを滑らせるように自分の方にひき、その手を先ず額にそれから胸に当てる。相手の思いを受け取って自分の心にとどめるというような、握手よりもっと心が近づくようなあいさつだ。
満足感をもって講座を終えられたのは、文字というより古代の人の思いや文化に触れられたからだろう。
知らない世界は深く、面白い!
 

竹の棒に文字を彫る手紙


 

文字の組み合わせが一目でわかる文字表


 
◎ Navi Manila Vol.29 より