甘い思い出と結びつく!? スイートなスパゲティ
フィリピンのスーパーマーケットのスパゲティ売り場は大きい。特にクリスマスが近づくと、巨大化し、10人分~20人分用のスパゲティとソースが入ったセットが所狭しと並ぶ。大盛りのスパゲティは家族、親戚が集まるクリスマスの食卓の主役の一つだ。そのスパゲティはペペロンチーノではなく、明太子スパゲティでもなく、ボンゴレビアンコでもない。トマトソースにブラウンシュガー、バナナケチャップをまぜた甘~いフィリピンスタイルである。
原型は米国人によってフィリピンにもたらされた本場イタリアのボロネーゼスパゲティだったのだが、どこでひねくれたのか、独自の進化を遂げて1940~60年代にフィリピノ・スパゲティができたらしい。この甘いスパゲティをパンと食べるのがフィリピン流で、おいおい炭水化物の食べすぎじゃないかと心配になる。しかし、考えてみると日本にも焼きそばパンというのがあった。
私が初めてジョリビーでフィリピンスタイルのスパゲティを食べたとき、懐かしい感じがした。スパゲティのやわらかな食感が、昭和の給食で出てきた「ソフトめん」の記憶を呼び起こしたのである。それ以来、ときどき無性に食べたくなってはジョリビーに通い、今に至っている。マニラに来た日本人の友人に、このジョリビーのスパゲティを紹介すると、その甘さにネガティブな反応が返ってくることがほとんど。しかし、しばらくすると、「あの甘いスパゲティが食べたい」と言ってくるのが一定数いる。
また、フィリピノ・スパゲティに入っているソーセージのぶつ切りは、私が荒れた中学時代に授業をフケて行ったサ店(当時は喫茶店をこう呼んでいたんです)で食べたスパゲティナポリタンを思い出させる。
食べて懐かしさを感じさせる料理をコンフォート・フード(Comfort Food)というが、フィリピノ・スパゲティはまさにコンフォート・フードなのである。(T)
(初出まにら新聞2023年12月21日号)