キラウィン? キニラウ? 気になるその違いは?
フィリピンの刺身、あるいはフィリピン風の魚のマリネと呼ばれるキニラウ(kinilaw)という料理がある。このキニラウはフィリピン北部、イロカノ地方でキラウィンと呼ばれる。ならば、キニラウとキラウィンは同じ料理ということで一件落着と思っていたら、キニラウは生の魚を使うのに対して、キラウィンは魚をサッとゆでたり、あぶって使うという違いがあるとの説が。また、キニラウはタニゲ(サワラ)やマグロといった魚を使うが、キラウィンは魚のほか、ビーフやチキン、カンビン(ヤギ肉)などを使ったものもある。さらにイロカノ地方では、肉をマリネして焼いたり煮込んだりした料理もキラウィンと呼ぶらしい。シンプルでさっぱりとした料理なのに、呼び方はややこしくて困る。
知名度でいえば、キニラウの方がキラウィンよりもずっとポピュラーだ。しかし、これまで私がキニラウだと思って食べてきたのは、明らかにキラウィンの方である。行きつけのフィリピン料理店でこれまで数年に渡ってキニラウと注文し、食べてきたのも、実は写真のキラウィン・ナ・タニゲであった。軽くゆでた魚の身をぶつ切りにし、酢でマリネして、刻んだタマネギ、チリ、ショウガなどとあえ、好みによりコショウで味を整える。爽やかという言葉は、この料理のためにあると言いたい。酒の肴にピッタリの一品である。
キラウィンの歴史は、スペイン統治時代よりも昔、人々が生の魚や肉を食べていた時代にまでさかのぼる。そして、グアムの伝統的なチャモロ料理のケラグエン(Kelaguen)はフィリピンからの移住者によってもたらされたキラウィンが原型なんだそうだ。
この原稿を書いていた今月上旬、南米ペルーのシーフードマリネ料理セビーチェがユネスコ無形文化遺産に登録されたというニュースが入ってきた。セビーチェが登録されるなら、キラウィンやキニラウにだってチャンスがあったんじゃないの?(T)
(初出まにら新聞2023年12月14日号)