秘伝のたれに漬け込んだ
豚バラ肉を炭火で焼き上げる

 

 豚のバラ肉のことをタガログ語でリエンポといい、これは中国・福建語の奶脯(leng-po)、乾いた胸肉を意味する言葉に由来するとされる。この豚バラ肉を炭火で焼いたのをフィリピン料理ではイニハウ・ナ・リエンポ(Inihaw na Liempo)というが、中国の焼き豚、チャーシューとは違う。イニハウ・ナ・リエンポというのが正式名称ではあるものの、フィリピン料理で一般にただリエンポと言えば、この豚バラ肉の炭火焼のことを意味するといっても差し支えない。

 

 

 


 豚肉をマリネするのに一晩、2~3人前のリエンポを焼き上げるのにゆうに1時間を要し、シンプルに見えて意外に手間がかかる。マリネするたれは、しょうゆ、にんにく、その他調味料などでつくるが、店はもちろん、家庭でもその材料は門外不出である。以前、ルソン島北部の友人の家で食事をごちそうになったとき、リエンポが出てきた。フィリピンの地方の家に行くと、裏庭にブロックを積み上げて金網を置いただけのワイルドなバーベキュー用グリルがあって、肉や魚を焼いて楽しむ。

 

 

 そのとき出されたリエンポがとてもおいしかったので、何気なくどんなたれに付け込んだのかと聞くと、友人からきっぱりと「たれに入れたものを教えることはできない」と言われた。こちらは軽い気持ちで聞いただけなのに。失礼なことを聞いてしまったのかと思っていると、もし将来ビジネスをするときに困るからだと言われ、リエンポでビジネスを考えているのかと聞くとそれはわからないという。私がリエンポでビジネスを始めることは100%ないのだが……。ひょっとして言ってはいけないものでも含まれていたのだろうか。その後、変な禁断症状も出ていないので安心している。

 

 

 リエンポはバラ肉ゆえ、脂身が際立つ。濃厚なうま味を含んだジューシーな脂身に付けるのは、有名で万能なマントマスソースでもいいが、私は醤油にカラマンシーを絞り、刻んだシリンラブヨ(唐辛子)が入ったサウサワン(ディップソース)を推す。脂身の甘さとカラマンシーのさわやかさ、ピリ辛醤油が絶妙に絡み合う。フィリピンではリエンポにライスが定番だが、私はリエンポと組み合わせるなら断然ビールである。フォークを使わず、手でつかんで食べるのがおすすめだ。

 

 

 そういえば、韓国料理のサムギョプサルも豚バラ肉のグリルである。ひと頃ほどの人気からは落ち着いたようにも思える。さては、フィリピン人はやはりリエンポの方がおいしいと気付いたか。(T)

 

 

 

(初出まにら新聞2024年3月21日号)