【ローカルフード再発見】シシグ Sisig

この記事をシェア

2024年6月5日

 

 

起源はフルーツサラダ!?
アンヘレス発の国民食

 

 フィリピン料理を代表するメニューの筆頭であり、ビールのつまみとしても最高に合うことからキング・オブ・プルタンとも称されるシシグ。筆者もマニラに来てから、いったい何皿食べたことだろう。フィリピンだけでなく、シンガポールでも、アラスカのフィリピン料理店でも食べたことがある。

 

 


 見た目は肉を刻んで鉄板の上で炒めて、はい、どうぞという感じだが、実際は非常に手間がかかる。まず、豚の頭をやわらかくなるまでゆでて毛を取り除き、耳や頬の肉を切り落とし、刻んで焼く。塩、コショウ、酢、カラマンシの汁で味付けしてから、玉ねぎと一緒に炒めて出来上がり。本格的なシシグは鉄板の上に載せ、生卵がトッピングされて出てくる。

 

 


 シシグと言えば、一般に豚だが、鶏肉、そしてバグス、マグロ、イカなどのシーフード・バージョン、ベジタリアンな豆腐シシグがあって、これらはマニラの店でもよく見る。エキゾチックな肉バージョンもあり、筆者はマニラでワニのシシグを食べたことがある。豚肉よりもさっぱりとした味わいのシシグでとてもおいしかったのを覚えている。カエルやヘビのシシグもあるそうだが、これらはまだ見たことがない。

 

 


 シシグはさぞ由緒ある肉料理なんだろうと思って歴史を調べてみると、1700年代にはルソン地方中部のカパンパンガン(Kapampangan)料理として存在したことが記録されている。だがその時はグリーンパパイヤ、グリーングアバと一緒に塩、コショウ、酢、ニンニクで味付けて食べるサラダだったという。

 

 

 

 シシグという名前は古いタガログ語で「酸っぱくする」という意味のシシガン(Sisigan)に由来し、二日酔いや吐き気の治療に用いられた。酸っぱいシシグを食べて、吐いてすっきりしようということだったのだろうか。現代では、シシグを食べればどんどん酒が進む。酔って吐き気がするからといって、治すためにこってりとした肉料理のシシグを食べる気にはならない。

 

 

 

 今の形のシシグは、米国統治下のパンパンガ州アンヘレスでクラーク空軍基地の食堂で使われない豚の頭を地元カパンパンガン人がもらい、無駄にすることなくゆでて料理して食べたのが原型とされる。1970年代にアリン・ルシン(Aling Lucing)さんが豚の耳、頬肉、レバーを焼いて作ったシシグが人気を博し、その後、アンヘレスの別のレストランが熱い鉄板に載せて提供するスタイルを導入した。

 

 

パンパンガ州アンヘレスのアリン・ルシンレストランのシシグ。
シシグ・クイーンとして知られたアリン・ルシンさん(80歳)は2008年4月16日、自宅で刺殺された状態で見つかった。

 


 1974年、観光省はアリン・ルシンさんのシシグによってアンヘレスは、「シシグ・キャピタル・オブ・フィリピン」としての地位を確立したと称えた。シシグを求めてアンヘレスに国内外から旅行者が訪れる。私もアンヘレスに行きたい。日帰りはあわただしいので夜は宿泊することになると思うが、決してアンヘレスにほかの目的があって行くのではないことを、前もって言っておきたい。(T)

 

 

 

(初出まにら新聞2024年4月11日号)

 

 

 

Advertisement