マウンテンプロビンス州マイニット
Mainit, Mountain Province:
Where People Live with Hot Springs
泊まるところが……
環太平洋に位置する火山島の国フィリピン。実は日本のように多くの温泉があるのをご存知だろうか。ルソン島北部マウンテンプロビンス州ボントック郡マイニット村は、フィリピンの温泉地の中でも取り分け湯量が豊富なことで知られる。集落のいたるところから湯が噴出していて、村には温泉を利用した独自の生活が息づいている。
マイニット村はマウンテンプロビンス州の州都ボントックからジプニーで1時間半ほど行ったところにある。村へ行くジプニーは夕方2本、翌朝ボントック行きが2本の1日2往復のみ。村の入り口には観光客向けの温泉施設が2カ所あり、温泉プールで水泳を楽しむこともできる。
私がこのマイニットを訪問したのは9月。ボントック郡一帯は稲の収穫期、棚田が黄金色に色づく頃で、村を出た若者たちが稲刈りの手伝いに戻ってくる時期だった。
最終のジプニーに乗りこんだ。
「どこに泊まる予定なのかね」
外国人の観光客はめったに乗らないためか、同乗していた地元の乗客にそう尋ねられた。
「村の入り口の温泉施設に泊まるつもりです」と答える。
「でも確か宿は今日両方とも臨時休業しているよ」
となりの席に座っていた女性がそういうと、宿に電話をかけてくれた。
女性の言う通り、臨時休業だった。泊まるあてもなく途方に暮れていると、その女性が家に泊めてくれることに。彼女の夫はマイニット村の村長だったのだ。村長の家は集落の中ほどにある。停車場でジプニーから降りて村を歩いてゆくと、村のあちらこちらから湯気が湧き出していた。村の中には男湯が3カ所、女湯が2カ所ある。男湯と女湯が分かれている理由は、マイニットでは温泉に入るとき日本と同じように裸で入浴する習慣があるためだが、以前は混浴だったという。
露天風呂の後のお楽しみ
村の浴場を訪れると、脇の道との仕切りがない露天風呂だった。地元の人は、風呂のすぐわきを人が横切っても気に留める様子もなく、おおらかに入浴を楽しんでいる。日本でも地方の古い温泉地に赴くと、地元の人々のための混浴の共同浴場に出会うことができるが、この集落でもそれと似た温泉文化があるようだ。浴槽は日本のものと比べると浅いため、寝るようにして浸からなくてはならないものの、湯の温度は熱く温泉好きにはたまらない。
夕方になると、棚田での仕事から戻ってきた村の人たちで浴場が混み始め、通りの脇にある温泉の湯を利用した洗い場は食事の支度をする女性たちでにぎわっていた。
温泉を楽しんだあと村長の家へ行くと、村長が自家製のサトウキビ酒を出してくれた。この酒はマウンテンプロビンス州の一部で醸造されていてサトウキビの糖汁にガモと言う木の実を加えて造る。ガモによって生まれるコクとかすかに残る甘味はまるで中国の老酒のようで、肉を使った郷土料理との相性は抜群だった。村の人たちと酒を酌み交わしていると一緒に飲んでいた温泉施設の管理人が興味深い話をしてくれた。
彼の家は村の中ほどにあるのだが、4月ごろから床下から湯が湧き出してきてしまったので住めなくなってしまったのだという。村ではこのように源泉が急に出現して家に住めなくなることが度々起こる。温泉と共に生きる村ならではの苦労だ。
翌朝、村を旅立つとき、小学校へ行く子供たちとすれ違った。未舗装の道路の脇から沸いている源泉をサンダル履きの足でスイスイと飛び越えながらよけてゆく。今日もマイニットの人々は温泉と共に暮らす。
(Cordillera Green Network & Share and Guesthouse TALA インターン 高橋侑也)
マイニット村への行き方
首都圏ケソン市クバオからCODAラインのサガダ(Sagada)行きバスに乗車し、ボントックで途中下車。所要時間約11時間。ボントックからマイニット村まではボントック市場の裏のターミナルから発着しているマイニット行きジプニーで所要時間約1時間半。
宿&ガイド情報
村の温泉施設は宿泊が可能。集落見学は通常温泉施設で地元のガイドを頼み見学する。閑散期や祝日には温泉施設やガイドが休業することがあるため要確認。
ゲストンズ・ミネラル・スプリング・リゾート
Geston’s Mineral Spring Resort
電話:0920-454-0963
伝統家屋風のバンガローが評判の温泉施設。食事は自炊。
チョンギアン・サーマル・プール・リゾート
Chonghian Thermal Pool Resort
電話:0939-819-9730
村の入り口近くの川沿いにある温泉施設。