何かインパクトのある食べ物の写真を撮りたい。そんな時にふと思い出したのが、フィッシュヘッドカレー。シンガポールの名物料理はマニラにあるのだろうかと心配していたが、意外にも身近なレストランで見つけることができた。フィッシュヘッドカレーを食べたことがある人は懐かしの味を思い出し、未体験の人はこの機会にぜひトライしてほしいマニラのフィッシュヘッドカレーを紹介。

 

 

 

なぜ魚の頭を使うのか?

 

 

フィッシュヘッドカレーとは何ぞや? という方のために説明すると、名前の通り、フィッシュヘッド、魚の頭が入ったカレーである。カレー専門店にはフィッシュカレーというのもあって、そちらの方が一般には知られているが、それとは違う。フィッシュカレーは一般に魚の切り身が入っているが、フィッシュヘッドカレーは、大きな魚の頭がドーンと鎮座している。

 

シンガポール政府観光局によると、1940年代にシンガポールの小さなインド料理店で、インド人シェフが中国人客のために中国料理で使われるタイ(レッドスナッパー)を使ってカレーを作ったのが始まりという。筆者はほかの説も聞いたことがある。それはお金持ちの家で働いていた家政婦が、残り物の魚の頭を料理して食べていた。それを家族も食べてみたところ気に入り、多くの人に広めたという話。魚を1匹まるごと使わず、頭を使った理由としては、後者の方がなるほどと思うのだが。

 

 

フィッシュヘッドカレーに使われるカレーは、南インド式でとろみが少なく、サラっとしている。ちなみにシンガポールにはインディアン、マレー、中華、プラナカン(マレーと中華のフュージョン)と、多民族国家らしくさまざまなスタイルのフィッシュヘッドカレーがある。

 

 

土鍋で出てくるカレー鍋風

 

 

マニラのフィッシュヘッドカレー探し、まずは首都圏マカティ市のシンガポール料理店チョンバル(Tiong Bahru)から。チョンバルは、シンガポールの地名でローカルマーケットが有名なところ。この店はシンガポールではチキンライスのホーカー(屋台)で、『ミシュランガイド』によってコスパのいい店としての評価「ビブグルマン」に選ばれている。フィッシュヘッドカレーはマニラでも人気のようで、メニューに「カスタマーズ・チョイス」と書かれている。

 

 

注文してから約20分で、フィッシュヘッドカレーがやってきた。スタッフに聞くと、使っている魚は、タガログ語でビルアン(Biluan)。調べると英語ではラティス・モノクル・ブリーム(Lattice monocle bream )、和名はメガネタマガシラ。淡白でくせがない白身は、フィッシュヘッドカレーに使われる魚の適正条件を満たしている。土鍋に入って提供されることや、カレーはスープのようであることから、この店のフィッシュヘッドカレーは、チャイニーズ・スタイルと言えるだろう。

 

 

チョンバルのフィッシュヘッドカレー(888ペソ) Tiong Bahru, G/F Easton Place Condominium, 118 Valera St., Cor. V.A. Ruffino, Salcedo Village, Makati City

 

 

マナガツオ1匹丸ごとカレーに

 

 

フィリピン料理店にもフィッシュヘッドカレーがあると聞いて行ったのが、マカティ市グリーンベルトのロレンゾ・ウェイ(Lorenzo sWay)。レース・コース・ロード・フィッシュカレーとあり、シェフがシンガポールのレース・コース・ロードでカレーに出会い云々と書いてある。シンガポールのレース・コース・ロードといえば、リトルインディア地区にあってフィッシュヘッドカレーを提供する店が立ち並ぶ、いわば聖地。私がいたときは、バナナリーフ・アポロムトゥス・カレーといった店が人気だった。

 

 

 

実はこのロレンゾ・ウェイが提供するのは、厳密に言うとフィッシュヘッドカレーではない。使われている魚は、ポンパノ(Pompano、英語名Pomfret、和名マナガツオ)で丸ごと1匹使われている。ポンパノは、ひし形のような、またマンボウを小さく平たくしたような魚で、マニラのスーパーマーケットでもよく見る。中国料理で蒸し魚としてよく使われる美味な魚だ。カレーの辛さ、酸味と、ポンパノ独特のあっさり、そしてまろやかな甘みがある身が絶妙に合う。

 

ロレンゾ・ウェイのレース・コース・ロード・ポンパノカレー(Race Course Road Pompano Curry, 225ペソ/100グラム) Lorenzo’s Way, G/F, Greenbelt5, Makati City

それにしてもシェフは、レース・コース・ロードのどの店のカレーにインスパイアされたのだろう?フィッシュヘッドカレーと、中国料理店で食べたマナガツオの料理から着想したのだろうか。

 

 

 

ようやく出会えたレッドスナッパー

 

 

思いがけないところにフィッシュヘッドカレーがあった。ワルン・カピトルヨ(Warung Kapitolyo)というパシッグ市にあるインドネシア料理店である。配達OKというので、注文した。

 

 

届いたのを一目見て、先の2つのフィッシュヘッドカレーより好感が持てた。なぜなら、魚がレッドスナッパー、フィリピンではマヤマヤ(maya—maya)と呼ばれるタイの仲間だから。フィッシュヘッドは、やはり頭が大きく、肉もしっかりついているレッドスナッパーであってほしいと思う。目も歯もはっきり見えるので、写真映えもする。骨に付いている肉をそぎ落とし、ある時はそのまま骨をしゃぶって食べる。脳を活性化させ、DHAが豊富とされる目や、コラーゲンそのもののようなくちびるといった珍味も楽しめる。また、カレーに赤と緑の辛いチリが入っていて、インドネシア料理らしさを感じた。今回紹介した中ではコストパフォーマンスが一番良かったと思う。
 

ワルン・カピトルヨのフィッシュヘッドカレー (Gulai Kepala Ikan, 475ペソ/2~3人前) Warung Kapitolyo 83 East Capitol Drive, Brgy. Kapitolyo, Pasig City

 

 

今回、シンガポールで食べたフィッシュヘッドカレーそのものと言えるものには出会えなかったが、やはり料理は、提供される地でローカライズされるものだからであろう。カレーを使ったフィリピン料理はチキンカレーくらいしか思いつかないが、今後カレーが大人気となる可能性もある。いつかフィリピン人が愛してやまない魚、ティラピアやミルクフィッシュを使ったフィッシュヘッドカレーが登場するかもしれない。本物のフィッシュヘッドカレーが食べたくなった方は、フィリピンからシンガポールへの観光や出張の際にぜひ食べてみていただきたい。(T)

 

 

(初出まにら新聞2023年11月14日号)