コロナ禍が始まってから外食をすることがめっきり減り、自炊することが増えた。大そうな料理をつくることはできないが、昔、東京で自炊中、餅を手に持って切ろうとしたところ、左の親指にざっくり切り込んで夜中に救急車で運ばれたことを思えば、マニラではケガもなく無事である。私も進歩したものだ。指も切り落とすことなく健在である。
ふと振り返ってみると、最近魚を食べていないことに気付いた。魚料理は私の腕では自炊は厳しい。魚が食べたくなったら、もう止めることはできない。魚の料理もいろいろあるけれど、久しぶりにフィッシュ・アンド・チップスが食べたくなって、ネットで検索した。魅かれたのは、ブリティッシュ・フィッシュ・アンド・チップスを出すというカーゴフィッシュ(CargoFish)という店である。ランチタイムにさっそくBGCのアップタウンモールにあるカーゴフィッシュに行ってきた。
4階の中庭風なエリアにある店でフィッシュ・アンド・チップスをオーダーする時は、まず魚を選ぶ。ドーリー、ティラピア、コブラー(ナマズの一種)、コッド、サーモン。なぜかチキンやソーセージもあるが、フィッシュ・アンド・チップスを食べに来たので論外。これらの魚が生け簀で泳いでいたら楽しいだろうなと思いながら、コッドを選ぶ。イギリスには行ったことも住んだこともないけれど、英国でフィッシュ・アンド・チップスと言えば、魚はコッド、ハドック、ポラック、すなわちタラだと聞いていたので、マニラでもやはりコッドでなくてはなるまい。英国の国歌にも出てきたような? そればゴッドであった。
魚の次はサイドディッシュをポテト、サツマイモ、オニオンリング、コールスローサラダ、ライスの中から2種類選ぶ。ポテト一択といきたいが、2種類ということでヘルシーにサラダも選んだ。最後にソースを7種類の中から選んで、シーフードバーベキューというのにする。英国ではモルトビネガーで食べると聞いていたので、実際はどうか知らないけれど、ちょっと残念。
明るい黄色の衣が大ぶりの魚の身を包んでいて、それが2本入り。小麦粉をギネスビールで溶いて魚に付けて揚げるという話しを聞いたことがあるのだが、この店はどうなのだろうか。持ち帰りで食べたせいか、カラっと揚がったというよりは、ややしっとりと仕上がったフィッシュ・アンド・チップスだったが、久しぶりの魚はおいしかった。 Oh, My Cod ! 今度はビールを飲みながら楽しみたい。
かつて小説家の開高健は、ロンドンでフィッシュ・アンド・チップスを食べて「昔食べた時はとてもおいしく思えたのに、今食べるとおいしくない」と、ほかの美食を知ってしまったゆえに、昔食べたものがおいしく感じられなくなった悲しみを書いていた。私はまだフィッシュ・アンド・チップスを食べたくなり、食べておいしいと思うので、まだ美食の修行が足りないのだろう。
また、カーゴフィッシュの持ち帰り用の立派な箱を見て、これまた開高健が小説かエッセイに書いていたことを思い出した。今は衛生の観点から禁止されたらしいが、ロンドンでは昔、フィッシュ・アンド・チップスの持ち帰り用は新聞に包まれていたらしい。そしてフィッシュ・アンド・チップスを揚げたての熱いまま持ち帰るには、包む新聞は卑猥な記事が載った大衆紙が一番で、「タイムズ」のような高級紙で包むとたちまち冷めてしまうという話。では、「まにら新聞」で包むと・・・・・・? (T)