ルソン地方パンガシナン州に暮らすフィリピン人の知り合いが、年末年始に楽しんだ食事の写真を送ってきた。フィリピンの新年料理についての記事と比べて、その通り! と納得することもあれば、新しい発見もあった。家族のきずなが強くなるようにとの思いを込めた餅菓子、ココナツの葉で包んだ41本のスマンは、仕事先の中東から数年ぶりに帰ってきたお父さんの手づくりだそう。お疲れさまです。
家族は3歳児から50歳代の親まで10人。とはいえ、プト200個、グラハムケーキ20人分、スパゲティ40人分というのは、尋常ではない量に思える。フィリピンではテーブルいっぱいにできるだけ多くの種類のメニューを並べ、たくさんの量をつくるのも、縁起を担ぐ意味があるらしい。また、今年はコロナ禍のため家族のみで祝ったが、例年は近所の人も食べにくるため料理は多く用意するのだという。
フィリピンには新年に魚は食べるなという説もあるそうだが、この友人の家ではバグス(ミルクフィッシュ)が丸焼きで新年料理に出てきた。さすが、「フィリピンのミルクフィッシュの首都」ダグパン市があるパンガシナン州民である。
異文化を感じる年末年始
家族で祝うフィリピンの伝統
スパゲティにフルーツサラダ、グラハムケーキなど西洋っぽい料理を年末年始に食べるのはフィリピンらしいと思っていたら、縁起物の丸い形のフルーツ盛り合わせといっしょに、なぜか韓国の酒が供えられていた。また、元旦には韓国焼肉サムギョプサルを食べていた。この友人の家だけかもしれないが、韓流がフィリピンの田舎の年末年始の食文化にまで影響を及ぼしているようで恐れ入る。
フィリピンに新年にアンパオ(紅包)と呼んで赤いポチ袋に入れてお年玉を渡すのは、中華文化圏で旧正月に渡すアンパオと同じである。東アジアの文化習慣を取り入れるなら、ぜひ日本のもお願いしたいところだ。例えば、すでにフィリピンでは餅菓子を食べているので、餅の別バージョンとして雑煮はすぐに受け入れられるのではないか? 日本でも各地にいろいろな雑煮があるのだから、発想は自由である。ぜひマニラ風、セブ風、ビコール風などの個性的なフィリピン雑煮を開発してほしいものだ。名前はOZONIでもいいが、フィリピンらしくハロハロスープとかハロハロシチューなどをすすめたい。
年末年始に家族総出で料理をする伝統がまだフィリピンには残ってるようだ。地方だけでなく、同僚に聞くとマニラ首都圏でも家族が集まり料理をするという。
今から10年ほど前、ベトナム・ホーチミン市でベトナム人写真家が最も重要な日とされるテト(旧正月)の変化について書いたフォトエッセイを読んだことがある。昔は家族でテトのために料理を作って用意し、飾る花を育てていたのが、だんだん「買ってくる」ようになった。そして、都市化、経済発展と引き換えのように、だんだん昔ながらのものが消えゆくのを見ながら寂しさを感じ、これでよいのだろうかと、自分と社会に問いかけていた。これをフィリピンに置き換えてみたらどうなのだろう。やはり昔のクリスマスや新年とは変わりつつあり、昔ながらの伝統が消えていると感じている人もいるのだろうか。(S)