貧困糖尿病が急増中

 世界では約5億人が糖尿病に罹患(りかん)しています。国別では(1)中国1億4000万人(2)インド9000万人(3)米国3700万人(4)パキスタン3400万人……(11)日本780万人(12)フィリピン700万人となっています。増加率は11位の日本よりフィリピンが急増しており、しかも世界の約50%がアジアに集中。その要因として貧困糖尿病(diabetes in poverty)への対策の遅れが指摘されています。

 今回から4回にわたって、糖尿病の歴史、正しいメカニズム、簡単なダイエット、糖尿病に対応できるフィリピンで入手しやすい食材などについて解説します。

 

 

 

世界糖尿病デーとは?

 カナダのバンティング博士 (Frederick Banting / 写真) が1921年(当時29歳)にインスリン(血糖を下げる唯一のホルモン)を発見し、1923年、31歳のときにノーベル医学賞を受賞しました。彼は49歳で飛行機事故で亡くなっています。

 

Frederick Banting
(Wikimedia Commons Public Domain Arthur Goss)

 

 世界保健機関(WHO)は1991年に彼の誕生日である11月14日を「世界糖尿病デー(World Diabetes Day)」と定め、世界各地でブルーライトのイルミネーションをシンボルに糖尿病の啓蒙活動が行われます。私もこの日に糖尿病に関するイベントを毎年開催しています。

 

 

 

「糖尿病」の病名の歴史

 時代の変化によって、成人病→生活習慣病、精神分裂病→統合失調症、痴呆症→認知症といったように病態が把握できるような病名に改められています。2022年には糖尿病という病名に関するアンケート結果が糖尿病協会から発表され、なんと90%の患者さんが不快感(尿の言葉で不潔感、尿臭いという偏見、就職に不利、怠け者のイメージ、病態がわかりにくい)を示し、協会は日本糖尿病学会に新たな病名の提言を行いました。

 7年前、私は糖尿病学会で早急に糖尿病の病名を変えるべきと提案し、「糖尿病は糖毒病?」と題して発表した経験があります。学名diabetes mellitusは、ギリシャ語でサイフォンの様に湧き出る、蜜の様に甘い尿という意味です。中国では「消渇」、日本では平安時代に藤原道長によって「飲水病」と記されています。ちなみに道長が日本で最初の糖尿病の患者といわれています。その後「尿崩」「蜜尿病」「糖質甘血病」などと呼ばれ、1907年の第4回内科学会で「糖尿病」に統一され、現在に至っていますが、約120年間も病態がわかりにくい病名のままで良いのでしょうか?

 

理想の病名は?

 この答えには、インスリンの治療方針が大いに関係してきます。インスリンの発見までは尿が多い、尿が甘い、尿が臭い……といった尿の病名が主流でしたが、病態は血糖が高いことが問題なので、病名も変更すべきと思われます。そこで理想の新病名ですが、炭水化物(糖質)の取り過ぎが高血糖となり血管に傷をつけてインスリンが無駄使いされ、体内に脂肪が蓄積されて血流障害が生じ、最悪、糖が毒物となり失明や腎臓の破壊や手足の切断に至る恐ろしい病態であることを考えて、次のような病名を挙げます。①高血糖症 ②インスリン無駄使い病 ③炭水化物依存症 ④デンプン大好き病 ⑤血管ボロボロ病 ⑥糖毒病 などはいかがでしょうか? 皆さんのご意見は?

 

糖尿病大国? フィリピン

 糖尿病には特有の症状があり、病態の理解が困難で、治療が遅れがちです。それが特に貧困層で急増している要因でもあり、冒頭に紹介した通り、フィリピンは糖尿病大国になりつつあります。私は以前、医学生向けに糖尿病の試験問題として次の7問を作りました。

(1) 糖尿病の典型的な自覚症状を次の中から選んでください。
①のどが渇く ②手足がしびれる ③特になし

(2) 糖尿病患者の運動として散歩を行う場合、最も効果的な時間帯は?
①食前の早朝 ②食後1時間 ③食後2時間

(3) 糖尿病の血糖チェックにベストの時期帯は?
①食前 ②食後60分 ③食後120分

(4) 次のうち、糖尿病患者に適した食べ物は?
①焼きそばパン 
②ポテトを使ったサンドイッチ 
③豚肉を使った総菜パン

(5) コンビニに売っている麺類を糖尿病患者が選ぶとき、次のうち適しているものは?
①パスタ ②焼きそば ③うどん ④ラーメン ⑤ビーフン

(6) 漢字「糖」は米と唐で構成されています。「米」はデンプン(糖質)でご飯やパンや麺類、菓子などを意味します。では「唐」の意味は何ですか?

(7) 身長165cm、体重70kgの方の標準体重は?

 

皆さんも考えてみてください(答えは次回)。

 

伊藤実喜 Dr. Miyoshi Ito
医師・医学博士 
東京上野マイホームクリニック院長。STCメディカル国際クリニック(マニラ市マラテ)理事。AMIRI免疫研究所(大阪)理事。Cell Lead International (大阪)専属医師デ・オカンポ医大(De Ocampo Memorial College) 客員教授。1951年福岡県小郡市生まれ。福岡大学医学部大学院博士課程修了。レイテ島での医療ボランティアをきっかけに、フィリピン各地の貧困地区や刑務所などで「ドクターマジック」として手品ショーを取り入れた医療奉仕活動を行っている。1993年第60回奇術世界大会(カナダ・バンクーバー)優勝。
所属学会:日本臨床内科医会、日本糖尿病学会(生活指導医)、日本再生医療学会(厚労省再生医療第2種3種取得医))、日本温泉学会(温泉療法専門医)、日本旅行医学会(認定医)、日本性機能学会、日本奇術協会(芸名 Dr. Magic)、NPO日本フィリピン夢の架け橋代表