心不全パンデミックとは?
今回は、超高齢社会の日本で急増中の心不全について解説します。心不全の罹患(りかん)者は現在120万人、2030年には130万人になると予測されています。 日本人の死因上位は①がん (27%、38万人)②心不全(15%、23万人)③老衰(11%、17万人)であり、心不全の要因比率は❶虚血性心疾患(35%)❷心筋症(30%)❸高血圧(24%)❹弁膜症(16%)❺不整脈(心房細動が多い。10%)です。日本心不全学会では、65歳以上の30%が罹患していると推測しており、更にサルコペニア(筋力低下)や認知症のリスクもあり、その対策が緊急課題となっています。
驚異の心機能
心臓は、生きている細胞に必要な酸素や栄養を送り届け、必要のない二酸化炭素や老廃物を排泄するために自己発電しながら、一定のリズムでポンプの様に動き続けます。その回数/容量は、1分間に70回/70ミリリットル、1日10万回/7000リットル、一生では30億回/2億リットル(標準体重の80歳)と、驚きの機能を維持します。
全身の血管(動脈〜静脈系循環、毛細血管〜リンパ系循環)は約10万キロメートル(地球約2周半)を動脈〜静脈系では約1分、毛細血管〜リンパ系では約24時間かけて、絶え間なく循環し続けているのです。ちなみに、脳細胞は10秒途絶えるだけで変性が始まり、60秒で死滅し始めます。特に、腹部のリンパ系では約24時間かけてゆっくりと流れ、腸内細菌群の活性化、老廃物やがん細胞をNKリンパ球などの免疫細胞群(体の主治医)が睡眠時間を利用して治療してくれるので、夜の睡眠時間は貴重な自己治療時間となります。
心機能を悪くする要因
重要なポイントは、血管内皮細胞を傷つける要因をいかに減らすかです。以下のチェック項目に該当が0(ゼロ)ならば完璧、3つ以上あると要注意。
①高血圧 ②糖尿病 ③高脂血症
④高尿酸血症 ⑤ 肥満:BMIが25以上、身長cm−100以上の体重(身長が170cmの場合には170-100=70kgがほぼBMIの25に相当します) ⑥ 喫煙 ⑦ 不眠 ⑧ 甘い物が大好き ⑨食後運動しない ⑩あまり湯船に浸からない
以上の10項目は全身血管の老化を早める要因となるので注意してください。
心不全の分類と診断
心不全は、進行度分類(図参照)やBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチドで、20以下が正常)やCTR(心胸郭比 Cardio-Thoracic Ratio、胸部X線画像の横幅と胸郭の横幅の比率で心臓の大きさを判断、50%以下正常)で診断されます。
ステージA : 高血圧、糖尿病、肥満、動脈硬化などの心不全リスクはあるが、心臓の病気や心不全症状はない状態でBNPは35以下。
ステージB : 心臓の病気(心筋梗塞や左室肥大など)はあるが、心不全の症状はまだ現れていない状態でBNPは35〜100。
ステージC : 心臓の病気があり、むくみや息切れなどの心不全症状が現れている状態。ここからが心不全と診断される段階でBNP100以上。
ステージD : 治療を行っても日常生活に支障をきたし、症状が改善しにくい、心不全末期の状態でBNP200以上。
主な症状
心不全は右心不全と左心不全があります。絶え間なく動き続ける心臓に異変が生じる場合(心不全)には、特徴的な自覚症状があります。ペットボトルで説明しましょう。
心臓をペットボトルとして、心臓が収縮するとペットボトルの水はほとんど空になり、弛緩すると再び水が入ってきます。しかし、心不全となると、常にペットボトルを立てた状態で中に水が溜まっている状態になります。これが右心不全の病態で、両下肢が腫れてくる(浮腫)、肝臓が腫れる(肝腫大、腹水)、体重が増加するなどの症状が現れます。
次に、水が溜まったペットボトルを横にすると、左心不全の状態になり、肺に血液が溜まって(肺うっ血)、夜間の呼吸困難(起座呼吸、座って呼吸すると楽になる)や 肺水腫とも呼び、夜間の咳やピンク色の痰などの症状が特徴です。また横になると、下肢に溜まった血液の流れが良くなり、頻脈(ひんみゃく)や腎血流が増え、夜間頻尿になりやすくなります。
治療法は?
心不全の基本的な治療法は ①利尿剤 ②強心剤③血管拡張剤④体重管理⑤減塩指導などになります。もし自覚症状があれば、早めのチェックが必要です。次回は心不全の予防に重要な全身血管ストレッチを紹介します。
伊藤実喜 Dr. Miyoshi Ito
医師・医学博士
東京上野マイホームクリニック院長。STCメディカル国際クリニック(マニラ市マラテ)理事。AMIRI免疫研究所(大阪)理事。Cell Lead International (大阪)専属医師デ・オカンポ医大(De Ocampo Memorial College) 客員教授。1951年福岡県小郡市生まれ。福岡大学医学部大学院博士課程修了。レイテ島での医療ボランティアをきっかけに、フィリピン各地の貧困地区や刑務所などで「ドクターマジック」として手品ショーを取り入れた医療奉仕活動を行っている。1993年第60回奇術世界大会(カナダ・バンクーバー)優勝。
所属学会:日本臨床内科医会、日本糖尿病学会(生活指導医)、日本再生医療学会(厚労省再生医療第2種3種取得医))、日本温泉学会(温泉療法専門医)、日本旅行医学会(認定医)、日本性機能学会、日本奇術協会(芸名 Dr. Magic)、NPO日本フィリピン夢の架け橋代表