人間は生きるために必要な3大本能(食欲、睡眠欲、性欲)を持っています。そのうち性欲、性交渉による感染症について、世界保健機関(WHO)では、毎日100万人、世界の25人に1人、年間3億7600万人がSTD(Sexually Transmitted Disease 性感染症)に罹患(りかん)すると発表しています。今回は、代表的なSTDである①エイズ(AIDS) ②性器クラミジア③淋病④梅毒⑤トリコモナス症について解説します。

1.エイズ

 エイズは、HIVウイルス感染です。世界で約4000万人が感染、そのうち65%がアフリカ、毎年130万人が発症、65万人が亡くなっています。治療薬は抗レトロウイルス剤です。12月1日は世界エイズデー(World AIDS Day )として、赤色リボンをシンボルに、世界中で啓蒙活動が行われています。

 フィリピンでは1000人に0.4人の発症率となっており1日16人、年間約3万人がHIVウイルスに感染、特に男性同性愛者(MSM:men who have sex with men)に多いのが特徴です。日本では約2万件の感染(2023年)があり、同性間が68%、異性間が20%、20〜30歳に多いのが特徴です。保健所では無料のHIV抗体検査が受けられます。

 

世界エイズデーのシンボル、赤いリボンが飾られた米国ホワイトハウス(Wikimedia Commons Public Domain White House)

 

2.性器クラミジア
 クラミジア-トラコマティス細菌感染(細菌に分類されますが、細胞内寄生性細菌と言う変わった分裂を行い、抗生物質がよく効く特徴がある)で、最近世界の若者に急増中(世界で1億2700万人感染、年間3万人が発症)です。

 1〜3週間の潜伏期間を経て発症し、男性の場合の症状は排尿痛、陰部の痒み、尿道から白い分泌物。悪化すると精巣上体炎や前立腺炎で不妊症の要因となります。女性の場合は無症状が多いものの、排尿痛や膣の痒みやおりものに異常が見られ、悪化すると骨盤内炎症を併発して不妊症の要因となります。

 最近ではオーラルセックスで咽頭炎や結膜炎などの報告も多くなっています。症状があれば直ちに抗生剤の治療が必須です。ネットで簡易キットも購入できます。特効薬アジスロマイシン1000mgを1回服用すれば、ほぼ完治可能です。この病気はピンポン感染(風俗店などで感染し、パートナーに感染させてしまうこと)とも呼ばれて、コロナによるパンデミックが終息し、国際交流が活発化している今、急増が懸念されています。

 

クラミジア病原体 (Wikimedia Commons Public Domain)

3.淋病
 淋菌感染で発症(世界で年間8700万人)し、症状と治療は性器クラミジアとほぼ同じですが、抗生剤の薬物耐性(抗生剤がなかなか効きにくい)の問題があるので、クラリスやレボフロキサチンなどの対応で長期間の治療が必要となる場合があります。

4.梅毒
 梅毒トレポネーマという細菌で感染し、約3週間~3カ月の潜伏期間を経て3期に分けて発症します①ペニスに無痛性のしこり(硬性下疳コウセイゲカン)発症 ②さらに3年以内に全身に発疹(バラ疹) ③悪化してゴム腫や心臓や神経破壊。治療にはペニシリンの抗生剤が有効です。
 近年若者の感染が増加中で、妊娠初期に感染して胎児への移行も報告されています。

 

電子顕微鏡で見た梅毒トレポネーマ(Wikimedia Commons CC BY 2.0 NIAID)

 

5.トリコモナス症
 トリコモナス原虫の寄生虫感染(世界で年間1億5600万人が感染)で女性に多く、悪臭の緑色のおりものや膣の痒み、性行為痛の症状があります。 男性は多くは無症状ですが尿道の痒みを伴うことがあります。治療薬はメトロニダゾールなどの抗原虫薬を使用します。

 

 性感染症の予防
 STDに感染しないためのポイントは次の6つです。
❶粘膜と粘膜の接触を避ければ良いので、性行為時にコンドームは必須。


❷感染によって排尿痛や残尿感や頻尿などの自覚症状があるが、あまり自覚症状がない場合もあるので、早急な対応をする。
❸迅速な感染確認が必要。定期的なチェックや簡易キットを活用し、早く診断して早く治療を行う。未治療で不妊症になる場合もある。
❹ワクチン接種が有効な場合があるので医療機関で対応。
❺しっかりとした性教育指導。フィリピンでは学校やバランガイの指導体制が重要な役割を果たす。麻薬や覚醒剤注射の使い回しによる感染も危険。
❻不特定多数との性交渉は避け、常に抗生剤は確保(アジスロマイシンはお勧め)。

 大事なのは、正しい知識と正しい対応です。人類が生き続ける限り性行為とSTDは密接に関係することを認識しましょう。性感染症は、きちんと診断できればきちんと治療できるのです。

 

伊藤実喜 Dr. Miyoshi Ito
医師・医学博士 
東京上野マイホームクリニック院長。STCメディカル国際クリニック(マニラ市マラテ)理事。デ・オカンポ医大(De Ocampo Memorial College) 客員教授。1951年福岡県小郡市生まれ。福岡大学医学部大学院博士課程修了。レイテ島での医療ボランティアをきっかけに、フィリピン各地の貧困地区や刑務所などで「ドクターマジック」として手品ショーを取り入れた医療奉仕活動を行っている。1993年第60回奇術世界大会(カナダ・バンクーバー)優勝。
所属学会:日本臨床内科医会、日本糖尿病学会(生活指導医)、日本再生医療学会(厚労省再生医療第2種取得医)、日本温泉学会(温泉療法専門医)、日本旅行医学会(認定医)、日本性機能学会、日本奇術協会(芸名 Dr. Magic)、NPO日本フィリピン夢の架け橋代表