マニラ湾で造成工事が進むホワイトサンドビーチは、通称マニラベイ・サンズ(MANILA BAY SANDS)というらしい。シンガポールのカジノがある統合型リゾート、マリーナベイ・サンズ(MARINA BAY SANDS)と名前が似ている。マニラベイ・サンズはビーチを意味するのに対し、シンガポールの方はラスベガス・サンズという会社名にちなむ。だが、マニラの方が後発なので、真似をしたと疑われたら分が悪い。正式なオープンに合わせて、マニラ市民から名称を公募してはどうだろうか。
マニラベイ・サンズが完成したら、フィリピン国内はもとより、海外からの観光客でもにぎわうだろう。北海道釧路、バリ島と並んで世界3大夕日に数えられるマニラ湾のサンセットにホワイトサンドビーチ。これは立派な観光スポットになる。
その一方、マニラ湾には観光客とは無縁な、おそらく地域住民にだけ愛されているディープ(水深があるという意味ではなく)なビーチがある。それが、マニラ市港湾地区バセコ(BASECO)のビーチ。地元の人のみが知る隠れ家的なビーチで、マニラとは思えない手つかずの自然が残る・・・・・・といった風情のところではない。長年ごみの集積場だった場所である。昨年ごみが撤去されて砂浜が姿を見せ、ビーチとなったのだ。
昔のごみ集積場時代の様子を知る同僚によれば、ごみが幾層にも重なって、砂浜など全く見えなかったそうである。今のバセコのビーチはごみ一つない美しさとはいえないが、当時に比べたら、雲泥の差、月とスッポンなのだろう。
道の真ん中を歩けない住宅地
バセコのビーチには海に入って元気に遊ぶ子どもがいて、砂浜でのんびりくつろぐ人たちがいる。れっきとしたビーチだが、長い間ごみの集積場だったことを思えば、海水に体を浸けても大丈夫なんだろうかと心配になる。ビーチにいて臭いは特に気にならなかったが、「水質を検査したら、恐らくすごいレベルの大腸菌とか検出されるでしょうね」と同僚がつぶやく。
海岸すぐそばの水路には、なんと鮮やかなヒスイ色のカワセミのような鳥がいた。カワセミがいるのだから、水質の浄化は確実に進んでいると信じたいが。
バセコの歴史を調べると、もともとナショナル・シップヤード&スチール社の造船所があり、1960年代のマルコス政権時代、イメルダ夫人の親類へBATAAN SHIPPING&ENGINEERING COMPANYを通じて売却されたという。バセコという地名はその社名の略称だ。
マニラ市バセコ地区は、2016年のドゥテルテ政権発足後、麻薬戦争で多くの超法規的殺人があった場所であり、住民が貧困のため臓器売買をしていたことでも知られる。民家が密集し、道は舗装されておらず、ところどころに水たまりができている。晴れの日でもぬかるんでいて、道の真ん中を歩くことができない。大雨が降ったら、どれほど悲惨な状況になるのだろうか。先月の台風ユリシーズの時は大丈夫だったのだろうか。
ホワイトサンドビーチもいいけれど、バセコの住民のために、道路の舗装もお願いしたい。(K)
(初出ナビマニラウェブ11月4日掲載を再編集)