イロコス地方に住むフィリピン人の友人が家を建てた。日本やマニラほど建築費はかからないのかもしれないが、20代半ばの女性が両親と住むために家を建てたと聞いて驚かされた。間取りは2LDK、庭に野菜畑もある。現在は平屋だが将来は2階をつくりたいという。そんなレゴブロックみたいなことができるのか。

 

 6月初旬に新築祝いが行われ、きょうだいや親戚、友達ら50人以上来たらしい。送られてきた写真の中に、横たえられた豚の写真があった。カトリック伝統の新築祝いの儀式で、生きた豚を殺してその血を家の周りの土地にまくのだという。地底に住む邪悪な霊に豚の血を捧げ、自分の家に災いをもたらさないようにするのだそうだ。

 

儀式と宴会に使われた豚は1万7千ペソ。

 

 私が想像するに、そんな血塗られた光景は、もう凄惨な殺人事件現場である。司祭が家の壁に血で描いた十字架を知らない人が見たら、猟奇殺人犯が現場に残したメッセージである。セレモニーの後も洗い流さないそうだ。

 

血の十字架

 

宴会メニューは豚尽くし

 

 

  豚の血を得た邪悪な霊は気が済むかもしれないけれど、殺された豚の呪いや報いというのは怖くないのだろうか。日本人としては、新築祝いがこんなに血なまぐさくていいのかと思ってしまうのだが。

家の周りに聖水をまく司祭

 

 この豚は最後には丸焼き、レチョンバボイになったものと思っていたら、セレモニーの後の宴会用にさまざまなメニューになっていた。主なメニューを見ると、血も腸も頭も使われ、まさに豚尽くし。しかし、なぜかフィリピンで祝いの時に欠かせないといわれるレチョンバボイは含まれていない。確かに1頭の豚をレチョンバボイだけに使ってしまうよりは、いろいろなメニューを楽しみたい気持ちもわかる。宴会では、野菜料理のチャプスイや魚、デザートなどは司祭だけに提供された。

 

〈主なメニュー〉
シシグ カルデレータ メヌード
ニラガ アドボ ディヌグアン
イガド(豚のレバーを使ったイロコス地方料理)
エンブティド(豚肉のミートローフ)
パンシット4kg 
チャプスイ ※司祭のみ
焼きマラガ(malaga、魚の種類)※司祭のみ
レチェフラン ※司祭のみ

 

 

 沖縄や中国では豚のあらゆる部位を食べ、食べないのは鳴き声だけと言われるが、これはフィリピンにもあてはまるようだ。ちなみに新築祝いの宴会は2日2晩続いたらしい。ソーシャルディスタンスを守って楽しんだと思われる。(T)