濃く、深い緑の食用シダ
サラダで楽しむ絶妙な食感
一般に野菜を豊富に使ったヘルシーな料理とは対極のイメージがあるフィリピン料理。確かに肉を使った料理が目立つのは否めないが、これまでも本欄でピピノ、ライン、チョプスイといった野菜メインのフィリピン料理も紹介してきた。そんなフィリピンの野菜料理の中で、筆者がこれまで最も感動し、印象に残っているのが、このエンサラダン・パコである。
訳すとパコのサラダとなるのだが、パコとは何ぞやと思われるであろう。パコはシダの一種で、英語ではフィドルヘッド・ファーン(Fiddlehead Fern またはBracken)と呼ばれる。楽器のバイオリンの頭のようなシダという意味になるだろうか。日本でこれから旬のゼンマイやコゴミといった山菜も英語ではフィドルヘッド・ファーンに含まれる。ゼンマイにはロイヤル・ファーン(王家のシダ)や、コゴミにはオーストリッチ・ファーン(ダチョウのシダ)、ワラビにはイーグル・ファーン(ワシのシダ)というかっこいい英名もある。パコの英名は、ベジタブル・ファーンとなかなかわかりやすい。タガログ語ではカリスキス・アハス(kaliskis-ahas)という名前もあるが、ヘビのようなウロコという意味。食欲が失せてしまうので使わないようにしたい。パコの方が言いやすいし、愛嬌があってキュートだ。
筆者がパコを初めて食べたのは、ルソン地方北東部アウロラ州バレアである。サーフィンスポット、そしてハリウッド映画『地獄の黙示録』の撮影地としても有名なところだ。バレアに行く前に、フィリピン人の友人からパコがおいしいと聞いていた。普段野菜をあまり食べないフィリピン人が絶賛する野菜とはいかなるものなのかと、期待に胸が高まった。
いざバレアに行くと、路上で一束10ペソほどで売っている。道で買ってそのまま歩きながらパコをムシャムシャ食べるわけにはいかないので、地元の人気レストラン「イエローフィン・バー&グリル」でエンサラダン・パコを食べた。パコの緑は着色したんじゃないかと思ってしまうくらい、ほかの野菜ではちょっと見られない濃さ、深さがある。食感はシャキッというよりは、しっとりとした感じ。「かたい」と「やわらかい」のちょうどいい中間とでも表現できるだろうか。強烈な味や香りはないので、その食感を楽しむ野菜と言える。食物繊維、カルシウム、鉄分、ビタミンAとBなどを豊富に含む優秀な食材だが、サラダ以外にもパコを使った料理はあるのだろうか。
残念なことに、マニラのスーパーマーケットやパレンケ(ローカルの市場)では見たことがない。あれば、パコと塩漬け卵とトマトのサラダを毎日でも食べたいくらいだ。先頃、人気のフィリピン料理店「マナム」にエンサラダン・パコがあるのを知ってから通い詰めている。筆者はワラビやゼンマイは食べず嫌いで全然食べたいとも思わないのだが、なぜ似たような仲間のパコは好きなのか。不思議だ。(T)
(初出まにら新聞2024年4月25日号)