【北の町バギオから】先住民の子どもが描く自由なアート

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2023年3月8日

 

 

 

 昨年11月〜12月、コロナの影響で3年近くできなかった子どもたち対象のアートを活用する環境教育ワークショップを、マウンテン州タジャンで実施した。会場はバギオから車で約5時間のところにある先住民文化が色濃く残るコミュニティーの小学校。コーディネートを担当したタジャン出身のスタッフによると、2年半、家にいることを強いられていた子どもたちはすでに外の世界に対する興味を失いかけているという。

 

 「ようやく学校が再開され、友達や先生と会えるようになりましたが、パンデミック中に植え付けられた外部の人への警戒心は強い。どうか、新しい世界を子どもたちに見せてあげてください!」

 

 

 

初めて画材を見る子ども

 

 

 ファシリテーターは日本から来比したアーティストの髙濱浩子さん。「せっかくそんな山の中まで行けるのなら長く滞在したいです」という高濱さんの言葉に甘えて、タジャンに2週間の滞在をお願いし、8つの小学校で地域に伝わる民話を題材としたアートワークショップを行った。

 

 

カンカナイ族の民族衣装を着た語り部のフォルトゥナータ・ギアマスさん。

 

 

 

 まずは、語り部に学校に来てもらい、その土地に伝わる民話・伝承を話してもらう。そしてその民話の中に出てくるモチーフや風景を絵に描く。ほとんどの児童は、水彩絵の具を見るのも、水彩画用のちょっとざらざらした紙に触るのも初めて。子どもたちは拾ってきた葉っぱの色や形を観察して、絵の具を混ぜてその葉っぱの色を作り、画用紙に描いた。すばらしい集中力と観察力で、微妙な色使いのきれいな葉っぱが次々と描かれていった。

 

 

それぞれが描いた葉っぱやお花の絵をみんなで観る。友達同士、絵を指差し合って飛び跳ねている。「ひとの描いたものを見るのがとても大事」と高濱さん。

 

 

「葉っぱってただグリーンなだけじゃないんだ」子どもの自身の発見は喜びに直結する。そしてもっと違うもの、大きなものを描きたくてウズウズし始める。そこに、遠い国から来た、子どもたちにとっては不思議な言葉を話す宇宙人みたいな高濱さんの登場となる。

 

 

 

子どもたちと一緒に楽しむのが髙濱さん流のワークショップ。

 

 

 

 「語られた物語を忠実に描くことなんてない。感じたことや想像したことを自由に描いていいんだよ。自分が持っている感性を信じて、強く描いたり、やさしく描いたり」

 

 

 

 髙濱さんは言葉だけでなく、全身で醸し出すエネルギーで子どもたちに伝えた。

 

 

ある小学校でのワークショップでは語り部の伝承に出てきたブタの絵に挑戦した。

 

 

子どものパワー炸裂

 

 

 このアートワークショップは普段の教室で行われている授業とはあまりに違っていて、中にはちょっと眉をひそめている先生もいた。しかし、絵の具と絵筆を手にした子どもたちはどんどん自由になり、そんな先生の顔色なんて気にしない。自由にワイルドに、自分の顔にも描き始めた。

 

 

顔だってキャンバスに。

 

 

 実は私たちスタッフも髙濱さんも、子どもたちが各自でA3サイズの画用紙に描くワークショップを想定していたのだが、子どもたちのエネルギーに接していくうちに大きな紙を用意したくなった。ワークショップ期間中に日本にとんぼ返りで帰国する予定があった私は、ロール状の大きな画用紙を購入してタジャンに戻った。

 

 

スマデル小学校の児童が描いた作品。大きさ約1.5×5メートル。作品の日本巡回展示の情報はフェイスブック「Cordillera Folktales」にて。

 

 

 

 コミュニティーの中で育った子どもたちは、大きな画用紙に皆で協力して描くのがとてもうまかった。すべての生きものが、ある時は助け合い、そしてある時は争いながらも調和しながら存在する「森」のような絵ができた。髙濱さんが子どもに伝えたい思いを実現するように。

 

 

 アートには正解も間違いもないんだよ。

 

 アートは自由なんだよ。

 

 

 アートには国境なんてないんだよ。

 

 

 

写真:Gladys Maximo (SDS Multimedia)

 

 

「ルソン島北部山岳地方における地域の民話をベースとした環境教育教材としての民話絵本制作プロジェクト」
助成:りそなアジア・オセアニア財団 環境助成
画材提供:手をつなごうアジア

 

 

 

反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業Yagam Coffeeを運営。

 コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/

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