バギオ留学はハイブリッド型に進化中

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2021年6月30日

 

留学に適した「まじめ」な街

 

 バギオはリゾート地として名高いセブ島と並んで、フィリピンでの留学先として人気が高い。涼しい気候、治安の良さ、盛り場も少なくビーチも遠く、遊びに行くところがほとんどない「まじめ」な都市であることが、人気の理由の一つといえるだろうか。

 

留学生たちはバギオの気候や文化を思いきり満喫していた。(写真:パインス・インターナショナル・アカデミー 河端氏提供)

 

 またバギオは人口40万人程度の中都市なのに、大学が6校もある文教都市で教育水準が高い。さらに、ルソン島各地やコーディリエラ山岳地域から就学や仕事での滞在者、移住者が多く、北ルソンの共通語のイロカノ語、国語のフィリピノ語(タガログ語)と並んで、日常生活で英語を普通に話す人が多い。日本人を含む外国人にとっては、とても暮らしやすい街でもある。

 

 このような環境がそろったバギオには外国人向けの英語学校も多い。生徒の多くは韓国人と日本人。近年はベトナム、台湾、中国、アラブ諸国などからの生徒も増えてきた。英語留学は、観光業と並んでバギオ経済を支えてきた産業といえる。だが、コロナ禍により、多くの語学学校が海外からの新入生を受け入れることができずに休校や閉校に追い込まれた。

 

 1年以上におよぶコロナ禍を生き延びてきた学校は、いかなる対策をしてきたのか。「パインス・インターナショナル・アカデミー(PIA)」の日本人スタッフの河端健司氏と、留学エージェント「スクールウィズ」の太田英基氏に話を聞いた。

 

パインス・インターナショナル・アカデミーの河端氏(写真左端)と先生たち。昨年2月、ロックダウン前に撮影。

 

英語学校のサバイバル

 

 

 河端氏「PIAはもともとオンラインクラスを持っていたのが幸いしました。カリキュラム、講師、ITスタッフなどがそろっていたため、移行も比較的スムーズでした。しかしオンライン英会話自体はすでに多くあり、PIAは差別化を図るため海外留学や移住の際に必要なIELTS対策コースを開設しました。IELTSの需要増加と日本でもまだ珍しいコースであることから、生徒数は増え続けています」。

 

 

IELTS特化クラス強化のためにトレーニングを受けるパインス・インターナショナル・アカデミーの先生

 

 

 太田氏「オンラインでの『バーチャル留学』を始め、日本の中学、高校、大学に導入を提案してきました。英語の授業にとどまらず、国際交流と異文化理解のための工夫もしています。バーチャル・ツアーとして講師が市場、ジョリビー、ジプニーなどフィリピンらしいものを撮影した映像を使った授業も取り入れ、好評です。フィリピンの社会課題について英語でのディスカッションやプレゼンテーションも行いました」

 

太田氏(中央)とスクールウィズのメンバーたち。(スクールウィズウェブサイトより)

 

ネット世代のバーチャル留学

 

 太田氏は今年3月、通信制のN高でバーチャル留学を実施し、話題になった。私も太田氏からの誘いでN高の生徒向けに「コロナ禍バギオの現状」「何もないけど豊かなコーディリエラ山岳地方の先住民の暮らし」「環境NGOとしての20年の活動」「ソーシャル・エンタープライズを始めた理由」などをテーマにオンラインセミナーを行った。セミナーの後の生徒の感想に「『目の前にある小さなことを気持ちよい方向に一歩進める』という言葉が印象に残っています。考えすぎて行動しないのではなく、まずは何か小さなことからやってみようと思います」とあり、こちらが伝えたいことが届いているのを知ってうれしくなった。

山岳地方の棚田の村の旅気分も十分味わえるように、著者はプレゼンテーションにクイズ形式も取り入れた。

 

 

 さて、コロナ禍が続く中、フィリピン留学にはどのような展望があるのだろうか。
 河端氏「コロナ禍の中でオンラインレッスンの利点が理解できました。コロナ終息後は、対面とオンラインの融合型でより質の高い教育を提供できると思います。バギオの日常をSNSで投稿すると『懐かしい!』『早く戻りたい!』と帰国した留学生からの反応があり、元気をもらえます」。

 

 

パインス・インターナショナル・アカデミーのオンラインクラスの様子。

 

 

 太田氏「今も毎日のようにフィリピン留学の問い合わせが届きます。2022年春にはコロナ禍が終息することを願っていますが、確証はないので新サービスの開発と、バーチャル留学を一層充実させたい。例えば英語のプレゼンを上手にできたかよりも、まずは打席に立って経験する機会を提供したい。オンラインだからこそ、若い世代が気軽に挑戦できることがたくさんあると思います」。

 

 

フィリピンのごみ問題の現状を学び、その解決方法について生徒は英語でプレゼンテーションを行う。

 

 一刻も早いコロナ禍の終息とバギオに留学生の姿が戻ってくることを願うとともに、オフラインとオンラインを組み合わせた留学のハイブリッド・モデルの今後に注目したい。

 

 

反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/

 

 

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