【北の町バギオから】驚きの高値が付いたコーヒー豆

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2021年7月29日

 

 

 コーヒーは、世界的に水に次いで消費量の多い飲み物らしく、その市場も巨大だ。フィリピンは100年前、コービー輸出国だったそうで、その栄誉を取り戻そうと政府が積極的にコーヒー生産に力を入れている。コーディリエラ地方でも、環境負荷の少ない貧困対策の切り札として、10年ほど前から政府機関のサポートが始まっている。

 

 私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」でも、2005年からアグロフォレストリー(森林農法)でのコーヒー栽培を先住民族コミュニティで推し進めてきた。2017年には、販売をサポートする社会的企業「Kapi Tako Social Enterpriseを立ち上げ、フィリピン国内での焙煎豆と生豆の販売と、日本のフェアトレード市場への輸出も本格化させている。

 

 
 

CGNのパートナーのコーヒー農家さんたちと(前列中央が著者)

 
 

品評会でミンダナオ産が上位を席捲

 

 そんなコーヒー市場を盛り上げるため、2017年から行われているのが「フィリピン・コーヒー品質コンペティション(PCQC)」だ。農家からコーヒー豆のサンプルを募り、国際的なコーヒー組織 Coffee Quality Institute(CQI)の協力を得て、国際基準に基づき品質を審査し、順位をつける。

 

 今年も5月26日にアラビカ種、ロブスタ種の部門別に受賞した生産者が発表された。アラビカ種部門の上位11人のうち5人がコーディリエラからのエントリー。ただし5位以内にはマウンテン州サガダの農家が5位に入賞のみで、上位はミンダナオ島産のコーヒーが占めた。中でもミンダナオ島南ダバオ州のBACOFAというコーヒー農家組織の農家の豆は、ミンダナオからの受賞者6人のうち優勝、3位、4位、6位を占めた。

 

 同組織を長年サポートしてきたダバオ市のコーヒー輸出会社 Pistacia Mindanao Coffee Export, Inc.の太田勝久さんによると、「数年前までは全く売り先がなく、農家は自宅に山のような在庫を抱えていたんですよ」とのこと。メンバーの努力と目覚ましい進歩によって、フィリピン屈指のコーヒーが大農場や企業の契約農家でなく、農家自身が運営しているこの組織から生み出されているのは実にすばらしい。

 
 

太田さんがサポートしているBACOFA Coop組合長のマリビックさん(左)とご主人のジョー・ランディさん

 
 
 

 スタッフに確認したところ、どうやら私たちのコーヒー事業地の農家はこの品評会には参加しなかったようだ。私たちという安定した買い手がいるので、あえて品評会に出す必要がないのかもしれない。今年はパンデミックで村から出るのも大変な状態だったこともあるだろう。コーディリエラ地方からの入賞者は、今年はサガダ以外はバギオ近郊の町のものだった。そのうち2人のコーヒー豆は、私たちの社会的企業がフィリピン国内での販売をサポートしている生産者のものだった。組織としても地道に活動しており、品質の高いコーヒーを生産しているにもかかわらず、安定した買い手が見つかっていない2つの組織である。地道な活動と知られざるコーヒー豆のマーケットを探すために、品評会参戦はとてもいい機会だ。

 
 
 

5位に入賞したマウンテン州サガダの農家

 
 

複雑な気持ちになったオークション

 
 

 さて、今年の品評会では、2019年に続いて(昨年は行われなかった)受賞した生豆の公開オークションが行われた。そう、どんなに高い点数をとっても売れなければ意味がない。しかし、その結果に驚いた。1位になったアラビカ種の1キロ当たりの落札額はなんと52. 20米ドル、日本円で5,700円以上の値が付いたのだ。一般的な農家の販売価格は600~800円くらいである。落札者したフィリピン陣は、国内産コーヒー豆へ支援の意味も込めたのだろう。私は 「高値がついてよかった」と思う一方で、少し複雑な気持ちにもなった。

 

 たぶん優勝したコーヒー農家と同じくらいの努力をしてコーヒーを栽培し、加工している農家もたくさんいる。私たちのパートナーである農家の人たちもそうだ。でも、1キロ5,700円でコーヒーを販売できるわけではない。オークションは勢いやその場の雰囲気でどんどん入札が進んで値が上がる。そして、一部のマーケットでは、「オークションで〇〇ドルで落札したコーヒー!」というのに魅かれて、1キロ5,700円の生豆を焙煎して、抽出した高級コーヒーを楽しむ人もいるだろう。でも、それはとても小さな、一部の人たちの趣味の世界ではないだろうか。

 
 

ライブ・オークションはフェイスブックでも一般公開された

 
 

 オークションを運営したコーヒービジネス関係者の組織 Philippine Coffee Guild は、「こんな値が付くとは思わなった」とコメントし、貿易産業省(Department of Trade &Industry=DTI)の役人は「初めてオークションを体験したが、すばらしい」と興奮気味に語った。はたして農家の人たちはどう思っただろうか。

 

 大事なのは、農家の暮らしを長期的、安定的に支えることのできる持続可能なコーヒーの取り引きである。だから、私たちは今回のオークションのように投機的な側面があり、時に農家の足元をゆるがす「スペシャルティ・コーヒー」という市場とは少し距離を置くことにしている。 私たちのパートナーの農家が生産しているコーヒーのほとんどは、スペシャルティ・コーヒー評価基準の80点(スペシャルティ・コーヒー協会=SCAという団体が基準を作っている)をクリアしている。しかし、「何点のコーヒーだから」といって飲んでもらうより、「自然環境にやさしく、生産者の暮らしを支えているコーヒーだから」と手に取っていただく方が、私はうれしい。

 
 

ベンゲット州カパンガンでの集荷の様子。私たちのスタッフで、品質管理担当のリリーさん(右)と生産者組織のマネージャーのジャネットさん(中央)。

 
 
 
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反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/

 
 
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