【北の町バギオから】オンラインで3カ国 演劇交流イベント開催

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2021年8月31日

 

 

  私たちのNGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)は2016年から足掛け5年にわたって「聞き書き演劇ワークショップ」というプロジェクトを行ってきた。毎年、環境問題のテーマを決め、参加者の若者たちがその環境問題にかかわるいろいろな立場の人たちにインタビューをし、それをもとにファシリテーターが演劇ワークショップを行い、演劇作品を作るのだ。メインのファシリテーターは花崎攝(せつ)さん。演劇を人々の生活の中で生かし、演劇の可能性を広げる応用演劇のワークショップを日本で実施されている。2017年からは国際交流基金アジアセンターの助成を受け、日本とインドネシアも対象に加え、3カ国で交流をしながらプロジェクトを進めてきた。

 

 

 パンデミックで1年以上延期してきたが、今年は各国で演劇ワークショップを実施し、最後にオンラインで発表することになった。聞き書きするテーマは、地域で語り継がれている自然や自然と人とのかかわりりについての「民話」である。今、世界中の人々が直面しているこのパンデミックとはいったい何なのか? この時代を生き抜くためのヒントが昔から言い伝えられている民話にありはしないか? 

 

日本では、長野県上田市の犀の角劇場が会場となった。

 

 

 これらを演劇ワークショップを通して考え、演劇作品とし、オンラインを通してほかの国の人たちとも共有する。もちろん、話を聞きに行く人を「語り部」のみとすることとし、感染のリスクを最小限にするという目的もある。フィリピンのコーディリエラ地方、インドネシア・スマトラ島北部アチェ州、日本の長野県上田市の3カ所でワークショップが行われて演劇作品が制作され、8月8日に3カ国の交流イベントが行われた。

 

インドネシア・アチェのグループの演劇発表映像のシーン

 

 演劇ワークショップで作った作品はビデオで撮影し、交流イベントで上映することになった。フィリピンチームは、4つのグループがそれぞれ山の村で演劇ワークショップを行っていた。イベントの1週間前に、バギオ市から車で5〜6時間の2つの村にビデオ撮影隊が行き、ワークショップの様子と、演劇作品の撮影をした。演劇では北ルソンで広く話されているイロカノ語とそれぞれの民族語がちゃんぽんで話されているため、まずは英語の字幕を付け、さらに日本語とインドネシア語に翻訳して字幕を付けた。

 

 

フィリピン・ブギアス町のグループはファシリテーターの家からオンラインイベントに参加。

 

悲劇の民話を翻案

 
 
 
 フィリピンチームは、イフガオ州ティノックに伝わる「アンバクバク」という民話をもとにして制作した演劇作品を発表した。
 
 

 「その昔、まだ首狩りが行われ、多くの村人がよそ者を恐れていたころ、ある家族がその村を通る旅人をいつも家に招き入れ食事を取らせ歓待していたことから、ほかの村人たちの怒りを買い、ムチ打ちの罰を受けて村を追放された。その後、その場所からは水が湧き、ムチ打たれる両親を二人の子供が見ていた場所には小さな2つの塚ができた」。

 

「アンバクバク」の語り部のアスサナさん(左端)、ファシリテーターのロジャーさん(右から2番目)、そして撮影スタッフ

 
 

 この民話を演劇にしたのは、ファシリテーターのロジャー・フェデリコさんと、ベンゲット州ブギアス町の11歳から15歳までの11人の子どもたち。この物語をパンデミック下の小さな山の村の話に大胆に置き換えた。

 

 

演劇「アンバクバク」のシーン。11歳から15歳までの子どもたちが熱演した。

 

 

 「連日ヨーロッパで広がる正体不明の感染症についての情報が報道されている。そんな中、ある家族の父親がスペインから帰国する。父親は検査で陰性であることが証明されているのだが、ウイルスを持ち込んだという噂が村に広まり、店はこの家族に食べ物を売らない。村人たちはこの家族を村から追放しようとする。家族は村の政府によって隔離されるが、村人の不安は収まらない。ある日、その家族の家の近くから水が湧いた。村の長老は『縁起がいい。家族への仕打ちを反省し、許しを請うべきだ。そしてこの水が枯れないように大切にしなさい』と諭した。そして、村ではカブニャン(山の神様)が病を癒(いや)すために湧き水をもたらしてくれたことに感謝する儀礼を行った」。

 

演劇「アンバクバク」の最後、山の神様に感謝の祝宴を行う場面。

 

 

先住民の知恵から学ぶ

 

 ファシリテーターと参加者が、民話「アンバクバク」が今現在パンデミック下で自分たちの身の回りに起きていることにそっくりではないかと、ワークショップを通してディスカッションし、演じていく中で気づいて行ったことがうかがえる。そして、演劇では民話の悲しい結末とは違う明るい結末を導き出している。さらに「長老」が出てくるのがいかにもコーディリエラ地方らしい。先住民の知恵を伝える「長老」の言葉に人々が耳を傾けることで解決の道が開け、村の平和と水に象徴される「環境」の保全にもつながるのだ。そして、最後は目に見えぬ山の神様に感謝をささげる。

 

 

 コロナ禍による移動・集会制限と悪天候が続く中、短期間で丁寧に民話を読み込み、自分たちの地域に大事なものを発見していきながら制作した演劇。ブギアス町のグループの発表に、心より拍手を送った。

 

 
 
 

 
 

反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/

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