【北の町バギオから】コロナ禍の先住民村を救え! 日本のNPOが酸素タンク寄付

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2021年12月28日

 

 

「才能とストーリー」を支援

 

 2021年10月末、日本のNPO法人SPINプロジェクトが、ルソン地方北部ベンゲット州トゥブライ町の保健所に酸素タンクと調圧器を10セット寄付した。日本のIT企業Freewill(フリーウィル)が運営するクラウドファンディング「SPINプロジェクト」は、世界の知られざる「才能とストーリー」の支援を目的としている。その才能についてSPINプロジェクトは、「子どもたちを育む環境、動物たち、そして大自然――私たちが地球の未来に残したいすべて」と定義している。これまで、インドネシアのオランウータンの孤児をサポートするプロジェクトや日本の古民家の茅葺(かやぶき)の古民家を再生するためのプロジェクトなどを行うNGOの資金調達をサポートしてきた私たちのNGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」も、2021年に「世界のみんながしあわせになるコーヒー」プロジェクトの資金調達の際にお世話になった(2022年1月8日までサポート募集中!)。SPINプロジェクトでは、コロナ禍で影響を受けた世界の文化芸術と医療関係者に愛を届ける「ONE LOVE PROJECT」を展開しており、トゥブライ町の保健所への酸素タンクの寄付が実現した。

 

コロナ禍を信じない人々

 

 ベンゲット州では、2021年8月から急激にコロナ感染者と死亡者が増加した。移動や集会の規制が緩和され、都市部との往来が再開されるにつれて、感染が山の奥にまで広がり、感染者数が爆発的に増えた。

 

 実は、コーディリエラ山岳地帯の先住民族の中には新型コロナウイルスの存在を信じない人がまだ多い。私たちのNGOのフィリピン人ボランティアがバギオ市から車で5時間ほど離れたマンカヤン町で感染者との濃厚接触者を調査する活動をしているが、一番の難関は「新型コロナウイルスの存在を知らせること」と言う。電気はいきわたっているが、インターネットはまだ多くの地域に届いていない。テレビもない家庭も非常に多い。特に年配者の中には、外部の情報にアクセスせずに暮らしている人もまだ多くいるのだ。

 

 

(保健省ウェブサイトより)

 

 地域で重症化した感染者が確認されると、濃厚接触者のPCR検査が行われるのは都市部と同じ。陽性反応が出ると2週間の自宅隔離となる。しかし、新型コロナウイルスの存在を信じていないうえに、多くがその日暮らし。2週間働かずに食いつないでいける貯えはなく、畑で採れた作物を売って収入を得ないと生きていけない。体調に異変があっても人に告げずに普段通りに暮らし、感染を広げているというわけだ。

 

 先住民ならではの事情もある。山岳地帯の小さなコミュニティでの感染拡大を抑えられなかった理由を聞いたところ、誰もが口をそろえて「亡くなった人の通夜や葬式の席で感染が広がった」と答えた。先住民族によって死者の弔い方は異なるが、地域の全員が弔問し、遺族は食事をふるまい、酒を酌み交わすことは共通する。有力者が大往生すると1カ月にわたり通夜が続くこともある。伝統的な弔いの儀式は先住民にとって重要だ。また、先住民の死生観も影響している。「もしその時が来たら、それは順番ですから」と、新型コロナウイルスであろうとなかろうと、コミュニティで静かに最期を迎えたいと多くの先住民が考えている。これらの理由から、山岳地帯で感染が広がったと思われる。

 

医療体制の遅れ

 

 コーディリエラ山岳地方には圧倒的に病院が少ない。ベンゲット州では州都のラ・トリニダード町にあるベンゲット・ジェネラル病院以外は、車で4時間ほどのブギアス町にキリスト教系の病院があるのみだ。多くの先住民は保険に入っておらず、多額な医療費を支払えない。体調を崩しても病院に行くという習慣がないのだ。

 

 9月のある日、私たちのNGOが活動する村の人から「息ができない。助けてくれ!」と緊急の連絡が届いた。スタッフが町の保健所に連絡を取ったが、病院に搬送する間に使う酸素タンクはすべて貸し出し中という。あちこちに連絡を取って幸い隣の村で酸素タンクが見つかり、その重症化した村人を病院に搬送して一命を取りとめた。

トゥブライ町の保健所に運び込まれる酸素タンク

 

 

 コロナ禍発生からすでに2年近くたっているのにもかかわらず、都市部から離れた病院のない町の保健所の対応や医療体制、緊急時の酸素タンクさえ足りない実情に唖然とした。そこで、SPINプロジェクトに相談したところ「1人でも多くの命を救いたい」と「ONE LOVE PROJECT」で集まった金額の寄付を申し出てくれた。SPINプロジェクトに代わって私たちのNGOが酸素タンクの寄贈に町役場を訪れると、町長をはじめ多くの人に歓迎された。町長は「コロナ禍の中、今最も必要としているものです」と述べ、日々コロナ患者と向き合う保健所の職員は満面の笑顔で喜びを表してくれた。

 

 

トゥブライ町のアルマンド・ラウロ町長

酸素タンク寄付への感謝を示す町役場手織物センターの女性たちと著者(右から3人目)

アンバサダー村のコーヒー農家も大喜び

 

 

 

 トゥブライ町では、ワクチン接種をできるだけ広げようと町民を対象にキャンペーンを実施中だ。保健所の医師として昨年から働くロペス医師は、「約50%が接種を終えました。当面の目標は成人の80%にワクチン接種をすることです。町の保健課と保健所職員は二手に分かれて接種活動を行っています。私はこの役場のジムに設置された接種会場を担当。もう1グループは毎日村々を回り、ワクチンの意味を説明しながら接種を行っています」。

 

町役場の体育館がワクチン接種会場となった。

 

 

 

 新たな変異株が見つかり広がりつつあるというニュースが聞こえてきているが、どうかこのまま感染が終息してほしいと願ってやまない。

 

 

SPINプロジェクト「ONE LOVE PROJECT」では寄付を募集中。

 

 
 

反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/

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