【北の町バギオから】ルソン島の北の果てで出会うだれもいない海とワイルドな自然

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2023年7月7日

 

 

最北東端は沖縄の近所!?

 

 バギオからルソン島を西回りに走る夜行バスで約14時間。停車するごとに入れ替わる多くの客を見送り、朝方の田園風景を思う存分味わったのちに到着したのは、ルソン島最北東のカガヤン州からさらに北に突き出た半島にある小さな町、サンタ・アナだ。舗装されていないバスターミナルの周囲にはサリサリストアやローカルフードの食堂が並び、街に1本しかないメインロードをトライシクルがまばらに行き交う。朝8時、あいにくの曇り空の下、観光客は私だけである。

 

 

マニラからサンタ・アナへの行き方 セブ・パシフィック航空(1日2便、所要1時間30分)でトゥゲガラオ空港へ。その後、市内でサンタ・アナ行きのバスや乗り合いバンに乗り換えて約3時間でサンタ・アナに着く。

 

 なぜ、こんな北の果てに来ようと思い立ったか? それは、このサンタ・アナの沖合1.25Kmに浮かぶパラウィ島で知る人ぞ知るエコツーリズムが行われていると聞いたからである。バギオの英語学校で学ぶ傍ら、休日を利用してフィリピンのビーチを訪れてきた海好きとしては、ぜひとも行ってみたいと思ったのだ。

 

 

 いざ来てみると、想像以上にこの世の果て感がある。地図を見れば、パラウィ島から台湾まで400km。バギオからの道のりよりも近いのではないか? 沖縄・八重山諸島の島々へは600km。日本から見たらご近所さんといえるのではないか?

 

 

 

歴史ある灯台とワニ

 

 

 

 パラウィ島は2019年からパラウィ環境保護協会 (PEPA)により、持続可能(サステナブル)な観光地として開発されている。サンタ・アナ全体に陽気にはしゃいだリゾート感がないのはそのためだ。空気がゆっくりと流れている。パラウィ島へ渡るにはサンタ・アナのビンセンテ港からバンカーボートをチャーターし、ガイドとともに海に出る。ボートの待合場にはライフジャケットを着て待つ10人ほどのフィリピン人観光客がいた。相変わらず外国人は私だけである。

 

 

 

 

 まずは、観光スポットのスペイン統治時代に造られたというパラウィ島北端にあるエンガーニョ灯台へ向かう。近くの海岸から船を降りると手付かずの自然が広がる。透き通るターコイズブルー色の海は、白砂とのコントラストが美しい。すぐに登り切れそうな低い山が島全体を覆い、木々は青々と茂っている。

 

エンガーニョ灯台のある岬は、唐突にトンガリ山になっている珍しい地形。

 

 灯台がそびえる岬は海抜92mの小高い丘になっていて、頂上まで約1時間のトレッキングを楽しめる。平らなところはトロピカルな雰囲気の植物がトンネルを作り、アダンの実が下がっている。立派な観光案内所の建物はあるが、稼働はしていないようだ。大きな立て看板の前でガイドが島の説明をする。その姿はコロナ禍が明けて観光客が戻り始めたことへの喜びに満ちていた。観光客よりも多い土産店やハロハロ屋台の数にも、観光業復活への地域の人たちの期待の大きさがうかがえる。

 

 

アダンの生い茂る中を歩く。

 

 

 灯台のふもとから再びボートに乗って30分、パラウィ島ツアーに欠かせないクロコダイル島に到着した。文字通り「ワニ」の形をしたユニークな島だ。ボートで近づくと、岩場にぺったんこになって寝そべる大きなワニのように見える。ゴツゴツした岩でできたこの島に、緑はほぼない。荒涼としたその光景には、パラウィ本島とは異なる雰囲気がある。クロコダイル島はボートで5分もあれば1周できる大きさ。島は透き通った海に囲まれ、シュノーケリングでもぐるっと1周できるらしい。

 

 

ボートからクロコダイルのような島全体を撮ることができるのはほんの一瞬。

「ワニ」の尻尾に上陸すると、その大きさはワニというより「恐竜」であることに気付く。

 

 

島の開発と環境保全

 

 

 現在、パラウィ島での宿泊は地元の人の家に泊まるホームステイのみ。コロナ禍で閉鎖されたキャンプ場はそのうち再開されるだろう。電話やWi-Fiは一切届かないので、エコツーリズムと同時にデジタル・デトックスにもいいのではないだろうか。

 

 

観光客を待つ土産店

 

 ボート乗り場運営やホームステイを手配するPASANOBA協同組合のチャチャさんは「観光地として注目されてから、ホテルやカフェが増え、カジノもでき、雇用が増えた」と誇らしげに語る。一方で、サンタ・アナやパラウィ島に流れる緩やかな空気と素朴な風景が、この北の果ての海の魅力であることは間違いない。ここで生きてきた人々には当たり前で気づかないその美しさを保つことこそ、エコツーリズムの町として世界の冒険好きな観光客をひきつけることにつながるのではないだろうか。

 

 

文・写真:髙瀬 嶺香(たかせ れいか)  
日本のアパレル企業で商品開発を10年以上経験した後、バギオへ語学留学。現在、滞在9カ月目。フィリピンの自然に魅了され、長距離バス旅にはまっている。

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