「天国への石段」バナウエ 旅行記

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2022年8月5日

 バギオからさらに北へ車で数時間、1995年ユネスコの世界遺産に登録されたコーディリエラ山脈に広がる棚田群(ライステラス)で有名なイフガオ州バナウエを3泊4日で訪れた。(本稿掲載の情報は、2022年4月聖週間時点のものです)

 

Text&Photo: 深田莉映 Rie Fukada

 

 

 

 

 

 首都圏ケソン市クバオから午後9時30分発の夜行バス(Coda Lines、往復1人約1500ペソ)でバナウエに到着したのは、翌日午前9時。渋滞のため約12時間もかかった長旅の終点、バナウエ観光センターでワクチン接種証明を提示し、観光税1人50ペソを支払う。センターの前には、現地の自称観光ガイドやトライシクル、タクシーがわらわらと集まっている。

 

 今回は以前バナウエに来たことがある友人が、前回と同じガイドのグラハム・ハンダアン(Graham Hangdaan)さんを予約してくれていた。自分たちでまわることも可能だが、山の中であることや隠れ絶景ポイントなどは地元の人が一番詳しいこともあり、ガイドつきの方がまわりやすい。旅行が始まってからも、こちらの希望をその都度聞いてもらえ、途中でカフェに長居したり、天候による予定変更をしたりと柔軟に対応してもらえた。絶景ポイントやイフガオ伝統木彫り発祥の地とされるフンドゥアン町、イフガオ族の伝統民家が残る村やローカルマーケットなどをまわった。

 

 

 

 

 

マーベルの映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の撮影地になったバナウエの棚田がこちら! 悪役が安住の地として選んだ場所らしく、その設定にも納得。

観光省の認可を取得したバナウエのガイド、グラハム・ハンダアンさん。バナウエのガイドに関するお問い合わせはフェイスブックhttps://www.facebook.com/grahamzoro.hangdaanから。

 

 

 

トライシクルで行く絶景の旅

 

 海抜1,500メートルの高地に位置する棚田は、遠くから見た様子から別名「天国への階段」。神秘的な存在感を放ち、どこまでも続く棚田を前に、そう呼ばれるゆえんを感じる。棚田は大自然の風景に見えるが、2千年以上の時を経て人間の手で生み出されたイフガオの歴史そのもの。「世界8番目の不思議」とされ、すべての田んぼを平らに並べると地球の半分を覆い尽くすという。山で水の灌漑(かんがい)が可能になり、できるだけ多くの作付面積を得ようと棚田の建設が始まったとの説がある。

 

 

田植えをしていたおばあさん。田んぼの横の石に、管理者の名前と番号が彫られている。

 

 

 今回の旅行中の移動はすべてトライシクル。初めて屋根の上にも乗った。ちょっとお尻が痛かったが、緑の中、気持ち良い風を全身に受け、視界を阻まれずに景色を見渡すことができるのは至福の時間だった。結構揺れるので私は必死にしがみついていたが、トライシクルの屋根に悠々と寝転ぶ地元の人はすごい・・・・・・。

 

 

トレッキングコースの石段。1段1段が高く、足、腰、膝に響く。ルートはガイドよって異なるが、他の人とすれ違う時が一番怖かった。

 

 

心臓破りの石段トレッキング

 

 旅行2日目は、バナウエ旅行の目玉のひとつ、「タッピヤの滝」へのトレッキング。ハードとは聞いていたが、想像を超えていた。何しろ進む道の大半は、縦にはめ込まれただけの石段と棚田のふち。まさかのビーチサンダル履きでずんずん進んでいくガイドに、ひーひー言いながら一列で必死についていく様子はまるでカルガモの親子。ガイドは「毎日農作業のために山に入って走っているから余裕」なんだとか。ひと1人やっと通れる幅しかない尋常でない数の石段を、ガイドがバナナの木を切って作ってくれた杖を使って昇り降りを繰り返す。田んぼに落ちないよう足元に注意していると、せっかくの景色に気を払う余裕はゼロ。その分、眺望がいい休憩所では圧巻の絶景に毎回息を呑む。棚田の中を歩く高揚感と疲労も相まって、これ以上ないごほうびになるのだ。

 

 約3時間のトレッキングを終え、滝に到着するや達成感に溢れるテンションのまま、滝つぼ付近にダイブ! ガイドが荷物番をしてくれて、帰路の体力は残しつつ安心してはしゃぎ倒す。ズボンの着替えを持参していなかったので、近くのサリサリストアで短パンを購入。もちろん更衣室はなく、ガイドに人から見えない場所に案内されて野生味を感じながら着替える。トレッキングの時は、虫が気になる草むらを歩くことはないので、石段の昇り降りがしやすい服装がおすすめ。私は短パンが快適だった。

 

 

今回のトレッキングの目的地タッピヤの滝。ビーチサンダル持参がおすすめ。

 

 

山の神様の怒りから身を守る?

 

 トレッキングの前に突然ガイドから手渡されたのは土ショウガ。「山の中では必ず笑顔を絶やさずに。地元の人にも挨拶してね」。なんでも、入山者の無礼な態度や不機嫌な顔に山の神様が怒り、帰宅後に体を壊すことがあるんだとか。そのお守りとしてショウガを持って行くのだという。実際に体を壊した人がいるのかと尋ねると「高齢者に多い」との回答。それは罰ではなく、トレッキングによる疲労が原因ではと思ったが、ありがたくポケットに入れた。お守りや神が怒る話は、日本の土着宗教観と似たものを感じる。私はなんとなく今もショウガを捨てられずにいるが、滝で早々に失くした友人2人は帰宅した後も元気だ。

 

 タッピヤの滝へのトレッキングとは比べ物にならないほど過酷な2日間コースもあり、ガイドに「次は挑戦できるように足腰を鍛えてきて!」と言われた。4~5月は田植え期で緑が映えたが、次回は8~9月の収穫期までに稲穂で黄金色に染まる神秘的な棚田をぜひ見に行きたい。

 

絶景ポイントのART SKY GARDENから。ジブリの映画『もののけ姫』のサントラが流れそう。

魔除けのための動物の骨がたくさん飾られている。ヒトの頭蓋骨もあり太平洋戦争の犠牲者のものだとか・・・・・・。

 

 

危ない!?   噛みタバコ

 

ビンロウというヤシ科の実と石灰の粉を葉っぱに包んで噛む「噛みタバコ」。現地では「MOMA」と呼ぶ。飲み込んではいけない。噛むと唾液が赤くなる。地元の人はそこらじゅうで真っ赤な唾液をすごい勢いでぺっ!と吐いている。少し覚醒効果があるらしく、好奇心で試してみたが、舌がびりびりとしびれる刺激の強い味に耐え切れずすぐに吐き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

自然派!バナウエ土産

 

古代米の一種で栄養価も高い赤米と白米のミックス。100%オーガニック米にするため収穫は年1回。(下)ガイドにもらったショウガの現在。

 

 

 

 

 

 

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