伝統を紡ぐ一族 カリンガの彫師 マンババトック

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2024年4月12日

ルソン地方北部カリンガ州ブスカラン村で受け継がれる伝統のタトゥー、バトック(Batok)。最後の伝統彫師として知られるアポ・ワン・オドゥさん(107)は現在多くの弟子を抱え、伝統の継承に力を注いでいる。そんなオドゥさんから直々に指導を受け、今回イベントに参加するためにマニラに来たマンババトック(バトックの彫師)の3人に聞いた。※本文中敬称略 (取材・文:荒田玲音)

 

 

※2024年3月15日、リサール公園にて開催されたイベント「Coffee and Ink atbp」にて取材。

 

 

 

―マンババトックになったきっかけは?

 

 

バネッサ:私たち3人はカリンガ州ブスカラン村の出身で、アポ・ワン・オドゥの親戚です。彼女にインスパイアされて、また先祖代々受け継がれる知識と技術を継承する意味でも、マンババトックになる道を選びました。

バネッサさん(30)

マリベル:私たち全員マンババトック歴は5年ほど。パンデミックの直前にアーティストになりました。

マリベルさん(30)

バネッサ:アーティストになる前は、村にタ トゥーを入れに来る人たちを案内するツアーガイドをしていました。村はツアーガイドなしでは入れません。人口も千人以下と少なく小さなコミュニティーということもあり、村の人たちの多くはワン・オドゥに影響を受けてアーティストになります。現在彼女には130人以上の弟子がいます。

 

 

―どのような修行をするのですか?

 

 

バネッサ:まず練習することから始めます。ワン・オドゥはしっかりクオリティチェックをしますし、出来がよくなければ、アーティストとして認めてくれません。

 

カトリーン:彼女はクオリティコントロールを徹底しています。なかなか厳しいんです。

 

 

カトリーンさん(30)

バネッサ:すごく細かいところまで批評します。納得のいくレベルまで達していなかったら、もっと練習するように言われます。

 

マリベル:私の場合は母と練習しました。母もアーティストで、お客様相手に彫る前に、実際に母にタトゥーを彫って練習するんです。伝統タトゥーの模様を描いたりする練習もしますが、本当に彫ってみないことには上手くなりませんから。

 

バネッサ:現在ワン・オドゥは3つの点を並べた模様しか彫りません。年齢のこともあり、視力も衰えているのが理由です。他の伝統模様を希望の場合は、私たちのような弟子が彫ります。

 

 

―バトックの魅力とは?

 

 

マリベル:モダンタトゥーと違って伝統的な彫り方で入れるバトックはとても個性的と言えます。デザインにおいても伝統的な模様が魅力です。どちらも他の場所では見つけることはできないでしょう。

 

 

バネッサ:ポメロトーン(柑橘系果物の木でつくられる針)を竹の先に差し込み、炭をインクとして針の先につけてタトゥーを入れます。使用するインクも松を焼いてつくった炭の粉と水を混ぜたもので、オーガニックです。

 

バトックを入れる道具。ポメロトーン(針)がついた竹のスティックに、それを叩くドラムスティック、そして炭と水だけでできたインク。

 

 

―バトック以外のタトゥーについてどう思いますか?

 

 

カトリーン:自分たちもバトック以外のモダンタトゥーを入れています。機械を使ったタトゥーを自分が彫った経験はないですが、習ってみたいですね。

 

 

バネッサ:ブスカランで入れるときも、もちろん伝統模様をおすすめはしていますが、お客様の希望のデザインも入れます。

 

マリベル:ワン・オドゥもバトックをすすめますが、特にバトックしか入れてはいけないというような決まりは私たちにはありません。

 

 

①下書きをして

②ワセリンを塗ったら

③くぎを打つようにトントンと伝統的な方法で彫り進める

④完成したのがこちら

 

 

 

―村でのマンババトックとしての活動とは?

 

 

バネッサ:アーティストもグループごとに分かれていて、私たち3人も1つのグループとして活動しています。

 

マリベル:ブスカラン村のお客様は村でホームステイをするのですが、1つのアーティストグループがそれぞれのホームステイのグループにあてがわれ、そのグループがタトゥーを彫ります。

 

カトリーン:そのためアーティスト同士で競ったりすることなく、平等に客がつくようになっています。

 

マリベル:村でのお客様相手の仕事以外にも、今回のイベントのように招待されてマニラに来ることも年に数回あります。

 

バネッサ:9月には香港で行われるタトゥーイベントに参加する予定です。

 

 

 

(初出まにら新聞2024年3月23日号)

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