【フィリピンでもやっぱり「本」が好き。】本を手に取って読む 喜びを。南東舎書店インタビュー

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2022年3月16日

 

For the Joy and Power of Reading Books

 

 

 

 

「南東舎書店」店主インタビュー

Interview with the owner of Nantosha Book Store

 

日本の書籍や雑誌を扱う南東舎書店がマカティ・セントラル・スクエアにオープン。常設の日系書店の登場は、在留邦人の間で注目を集めています。店主の石山永一郎さんに、書店を始めたきっかけや読書体験について聞きました。

Nantosha Book Store, probably currently Philippines’ one and only bookstore specializing in Japanese books, opened in Makati Central Square last January. Navi Manila interviewed the owner, Mr. Eiichiro Ishiyama about his passion for running the bookstore.

 

 

日本からマニラへ本3000冊

 

 会社を昨年8月末に辞めた後、フリーのジャーナリストになって少し時間に余裕ができたので、ほとんど雑然と並べていただけの書棚の整理を始めました。文庫は文庫、新書は新書だけで並べ、さらにジャンル分けをしているうちに「これ、書店にしてしまおうか」と思い至ったのが書店を始めるきっかけでした。最初は、本を手放すことにためらいもありましたが、「手放したくない本が売れてしまった時は、古本でまた買えばいい」と思い至りました。そこで昨年10月ごろから準備を始め、マカティ・セントラル・スクエアに小さなスペースながら空き店舗があったので、12月に契約しました。開店までにはコロナ禍は終息するだろうと見込んでいたのですが、オミクロン株で感染急増の最中と重なってしまいました。それでも、1月15日に店を開き、現在に至っています。

 

 2016年にマニラに来た後、東京の自宅の本をほとんど全部、マニラに送りました。その数は約3000冊、バリクバヤンボックスで30箱以上、重さ約2トン。今書店に並べているのはこのうちの9割ほどと、人から譲り受けたり買い取った本約1000冊、新たに日本から取り寄せた本約600冊です。書籍、雑誌、ムック、文庫、新書、漫画などの古書、新古書、一部新刊を合わせて約4000冊そろえました。値段は基本、税抜き本体の日本円価格×0.4(カバーのない本は×0.3)をペソの価格としています。

 

 

現存する唯一の日本の書店

 

 小説、実用書、学術書、語学参考書、コミックなどをそろえた中で、いちばん古いのは、私が 小学校時代に読んだ河出書房の『世界児童文学全集』。思い出がある全集ですが、児童書があまりなかったので、店に置くことにしました。そのほか、中学、高校時代に買った夏目漱石、芥川龍之介、太宰治など古典ともいえる日本文学の文庫本も並べてあります。また、フィリピン関連の本は約150タイトル、アジア関係は500タイトルあります。 

 

 来店される95%は日本人の方で、やはりフィリピン関連の本が人気です。日本語で書かれたコミックに興味を示したり、日本語が読めなくても写真でわかるからと手芸の本を買われたフィリピン人のお客様もいらっしゃいます。また、フィリピン人の方からは、修理工場などが参考にしたいのか日本で発行されている自動車の構造に関する本のリクエストが多いので、取り寄せる予定です。

 

 その昔、日本からの移民が多かったダバオなどにはおそらく日本の本を扱う店があったのではと想像します。しかし、戦後フィリピンで日本の本を専門に扱う書店は、おそらく当店が初めてだと思います。1983年時点では日本の書店はなかったことは、私が確認しています。それ以前からフィリピンに住む複数の人にも尋ねましたが、「食材店などが日本の雑誌などを置いていたことはあったが、書店はなかった」と聞きました。

 

 

3000 Books from Japan to Manila

 While sorting out my bookshelves in my home in Manila after I started to work as a freelance journalist last August 2021, I came up with the idea of opening a bookstore to sell numerous Japanese books I brought from Tokyo. In 2016, I sent 3000 books weighing about two tons from Tokyo to Manila. It’s Nantosha Book Store that I opened at Makai Central Square last January this year.
 The Nantosha bookstore offers about 4000 used and brand-new books including novels, magazines, comics and more. 95% of customers are Japanese and there are Filipino customers who are interested in manga comics written in Japanese and handicraft books with photographs. Automobile engineering books are in great demand among Filipino customers, too.
I believe Nantosha is currently the only bookstore that specializes in Japanese books in the Philippines. I guess there used to be Japanese bookstores in cities where Japanese immigrants lived such as Davao in the olden days.

 

 

古典、名作がそろう文庫。懐かしい作品に出会えるかも。本のほか、麻雀や将棋のセットなども扱っている。

 

 

 

読書遍歴、書物への思い

 

 先述の『世界児童文学全集』は、小学生の頃に父から買い与えられたものです。漫画好きだったので最初はしぶしぶ読み始めたのですが、だんだん夢中で読むようになりました。いちばんおもしろかったのはダニエル・デフォーの名作「ロビンソン・クルーソー」。今回本屋を始める前に読み返してみましたが、今読んでも十分楽しめる本です。

 

 社会人になってから日本で通信社の編集委員をしていた時は資料として本を買うことが常で、読書は仕事の一部でもありました。私以上に読書好きの知人の「その本を買うかどうか迷ったら買え」という助言にも従ってしまい、本に関しては散財を重ねてきました。しかも本を捨てられない困った性分もあり、蔵書は増える一方でした。

 

 ご存じの通り、今は電子書籍の時代です。しかし、私は本を「紙で読みたい派」です。付箋を付けたり、時には書き込みをしながら読むので、自分所有の紙の本でないとだめなのです。文庫や新書は持ち運びも手軽なので、ネットにわざわざつながなくても気楽に読める利点があります。

 

 書店を開店して間もなく、「これを海辺で読もう」と言って、司馬遼太郎の『坂の上の雲』と『龍馬がゆく』の文庫を全巻買っていかれたお客様もいました。いつでもどこでも手にして読むことができるのが紙の本の良さ。本は、やはり手に取って読むことで、特別な感慨を得ることができると思うのです。

 

 

The Tangibility of Paper Books

 I have been a book person since I was in elementary. I spent a lot on books when I worked at a news agency. Reading books has been a significant part of my profession as a journalist. I was reluctant to abandon the books once I own them, which is why my book collection grew.
 Nowadays e-books are getting more popular and popular, but I prefer paper books because I write notes on the books whilst reading. You can read paper books anytime anywhere without electric power or internet connection. I believe printed books, which is tangible, amplifies the pleasure of reading.

 

 

 

南東舎書店
Nantosha Book Store
1/F, Makati Central Square (Makati Cinema Square)
マカティ・セントラル・スクエアのチノロセス通り側、
BDO銀行そばの入口から入って直進、
1階メインフロアに出たら左折し、2軒目。
Business Hours : 10:30am – 7:30pm
Mobile:0927-355-3872(日本語対応可)

Email:ishimic0511@gmail.com
※本の買い取りについては Mobile:0995-936-5000または02-5313-7371まで。

 

 

 

「マニラ首都圏にお住いの方はもちろん、遠方にお住いの方もマニラにいらした際に立ち寄っていただけるような書店にしたいですね」

 

 

石山永一郎 さん 
1957年静岡市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。共同通信社入社後、91~95年マニラ支局長、99~2001年ワシントン特派員、02年~17年編集委員。17年〜21年まにら新聞編集長。著書に『マニラ発ニッポン物語』(共同通信社)、『フィリピン出稼ぎ労働者ー夢を追い日本に生きて』『アジア・ルポルタージュ紀行―平壌からバグダッドまで』『日本語で読むフィリピン憲法』、共著に『フィリピン年鑑』(いずれも柘植書房新社)など。

 

Mr. Eiichiro Ishiyama, the owner of Nantosha Book Store, is originally from Shizuoka City, Japan. After graduating from Keio University, Tokyo, Ishiyama became a journalist for Kyodo News, working as the Manila bureau chief and Washington D.C. correspondent.

 

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