【フィリピノ・ワールド】Jejemon ジェジェモン

この記事をシェア

2023年11月9日

 

 

 

 みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? フィリピンの人とSNS等でやりとりをしていて、略語や大文字と小文字の混ざった解読不能な文に悩まされたことはありませんか。これは英語やタガログ語、それらが混ざったTaglish(タグリッシュ)をさらに崩したものかもしれません。

 

 

 

Jejemon ジェジェモン

 

 

 Jejemon(ジェジェモン)は2000年代に携帯電話の普及に伴い登場した言葉です。当初はテキストメッセージで一度に送れる文字数が160字に限られていたため短くしようと綴りを崩したところから始まったようです。例えば “Good morning” は11字ですが “Gud am” なら5字で収まります。このamは午前のことですね。フィリピン語(タガログ語)の場合もako(私)をaqと書いたりna(もう)をnだけにして省略するのはわかりやすい例でしょう。

 

 

 スマホでのやりとりが主流になると、文字数を気にする必要は無くなりました。すると今度はハイスクール世代の若者たちが、自分の独創性を主張するため、あるいは親にメッセージを解読されないため、言葉をわざと長く綴るようになりました。例えばHelloをeEoWpFhUuExhzや3oWと綴ったり、pleaseのかわりにpuhLeaZZと綴ったりするそうです。こうなってはもう判読不能でお手上げです。

 

 

 このような人々がジェジェモンと呼ばれるようになりました。これはラテン系アメリカ人たちがネット上で笑いを表す「へへ」を “hehe”ではなく “jeje”と綴るのをそのままフィリピンでも使ったことに由来します。スペイン語でjは「ハヒフヘホ」の音を表すのでjejeが「へへ」と読まれます。フィリピンでもSan Juan(サン・フアン)等の地名やJose(ホセ)等の人名でjは「ハ行」で読むのでネット世代はすぐ順応したのでしょう。そこに「ポケモン」に由来する-monを付けたのがJejemonです。ここで突然「ポケモン」が登場するのも不思議ですが、日本でネットユーザーを「ネット民」と呼ぶような感覚なのでしょう。ちなみにジェジェモンたちの言葉遣いは「ジェジェニーズ」とも呼ばれます。

 

 

 2010年にはフィリピン教育大臣が、子供たちの言語能力が適切に育たない恐れがあるとして、正しい綴りを用いることを推奨しています。しかし、それから10年以上経ってもジェジェモン現象は健在どころかより複雑化しているようです。

 

 

世界50カ国を対象にした調査によると、スマートフォンを使う時間はフィリピンが最も長いんだそう。ジェジェモンの誕生も納得…?

 

 

 

 

Bekimon ベキモン

 

 

 ジェジェモンと比較されるのがBekimon(ベキモン)です。フィリピンではゲイの間で新しい語彙を作り出し、それが社会全体に広まる傾向があります。ゲイを一般にはbakla(バクラ)と呼びますが、ゲイの人が自分たちを呼ぶ名称として使っているのがbeki(ベキ)です。そこにジェジェモン同様、-monをつけたのが「ベキモン」です。これは当事者たちが使っている呼称で差別的な意味はありません。最近では恋人や配偶者を指すjowa(ジョワ)、「ダメ」という意味で使われるchaka(チャカ)、「冗談」という意味のcharot(チャロット)等のスラングがかなり一般的に使われるようになっていますが、これらも元は「ベキモン」でした。ジェジェモンたちがeEoWpFhUuExhzと綴るHelloはベキモンではHellarと綴られます。ここでも違いがわかりますね。

 

 

 社会言語学では特定の階層や集団に属する人々が、それ以外の人々と自分たちを区別するために用いる特殊な言葉を社会方言と呼びますが、ジェジェモンやベキモンはその例です。人はその服装や持ち物と同様に、使う言葉によって自分の所属する階層や集団、心理的距離を示すのです。その中で常に新しい言葉が生まれ、あるものは廃れ、あるものは引き継がれていきます。ジェジェモンやベキモンもめまぐるしく変化する今の時代を表す現象なのでしょう。

 

 

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。

Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia

Advertisement