【フィリピノ・ワールド】フィリピン語になった中国語

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2021年2月8日

 

 

 みなさんこんにちは!Kumusta kayo?  
 今年もまもなく2月12日に「チャイニーズ・ニューイヤー」と呼ばれる旧正月・春節がやってきます。フィリピンで「中華系の国民との連帯の意を示すため」として春節を正式な祝日にしたのは2013年のノイノイ・アキノ大統領政権の時。最近のことです。しかし、実はフィリピンと中国の関係は古く、900年代には既に交易が行われており、16世紀にスペイン人が到来した頃には既に多くの華僑がフィリピンに定住していました。そのためフィリピン語の中にも中国語の方言の一つ、福建語由来の言葉が含まれています。

中国正月を迎える中華街ビノンド

 

1.麺や料理の名前

 日本にもラーメンや餃子、チャーハンなど、日本版中華料理がありますが、フィリピンも同じで、「パンシット(焼きそば)」や「ルンピア(春巻き)」など、すでにフィリピン料理の一部となっているものもあります。petsay「白菜」やkintsay「芹菜」(セロリ)、toge「豆芽」(もやし)やsitaw「青豆」(ささげ豆)などの野菜の名前にも福建語から来ているものが多くありますし、フィリピンで朝食に食べる「タホ」(taho/柔らかい豆腐にタピオカや黒蜜をかけたもの)も「豆花」と書かれる福建語が元になっています。ココナツミルクときび砂糖のシロップにもち米を混ぜ込んだ「ビコ」(biko)は皆が「フィリピンの餅菓子」と思っていますが、実はこれも福建語の「米糕(mi gao)」だそうです。

 

フィリピンの春巻きルンピア

 

2.人の呼び方

 フィリピンでは自分より年上の男性や、若い男性を「お兄さん」という意味でkuyaと呼びますが、これも福建語の「哥兄(kohia)」(一番上の兄の意)が語源だと言われます。「お姉さん」ateも「阿姉(achi)」が語源。フィリピンの華人は2番目や3番目の兄弟姉妹はそれぞれ別の呼び方で呼びますが、華人以外のフィリピン人は「お兄さん」「お姉さん」と呼びかける時は特に産まれた順序を気にせずkuyaとateを使います。また市場などで馴染み客を「スキ」(suki)と呼ぶのも福建語の「主客」が語源で、日本語の「好き」とは関係ありません。

 

 

3. 日用品や取引用語

 その他、日常に使われる言葉にも福建語由来の名称がみられます。例えばbakya「木履」(木製のサンダル)、 hikaw「耳鉤」(イヤリング)や susi「鎖匙」(鍵)などの日用品、ginto「金條」(金)や tanso「銅索」(銅)なども福建語由来。きっと貿易取引で扱われた物の呼称等がそのまま一般名称になったのでしょう。取引用語と言えば、まとめて大量に仕入れることをフィリピン語では「パキヤウ」(pakyaw)と言いますが、これも福建語の「跋繳(poah kiau)」が語源で、1つに束ねるという意味だそうです。フィリピンの有名なボクシング選手で議員でもあるパッキャオ氏の名字Pacquiaoも綴りは違えど同じ言葉です。

 

 

4.その他の言葉や習慣

 腹が立つようなことが起こった時、フィリピンの人たちは「ムカつく」という意味で“buwisit”と言います。実はこちらも福建語由来で「無衣食(bouisit)」ですが、本来は「衣食が足りない、つまり不運だ」という意味です。何か思うように物事が進まなかった時、「運が悪かった」と言っているうちに意味が少しずつ変化して「ムカつく」という意味になったのでしょうか。

 

 言葉だけでなく、フィリピンと福建には、どちらも挨拶代わりに「もう食べましたか」と聞く習慣があります。交流の結果かどうかはわかりませんが、相手を気遣う気持ちが込められていることに違いはありません。故事成語に「衣食足りて礼節を知る」という言葉もあるように「衣食が足りる」ということは最低限の必要が満たされているかという人類共通の関心事だとも言えるでしょう。もっとも衣食が足りたから自動的に礼節を知るというものではありません。ところ変われば礼節・マナーも違いがあることも心しておく必要があります。グローバル社会では、文化の違いはあれど、マナーの奥にあるお互いを尊重する気持ちなどは忘れないようにして、さらに相互理解を深めていく必要がありそうです。

 

 それでは、恭喜發財(ゴンヘイファッチョイ)! これからの1年が皆様にとって実り多きものでありますように。

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子
日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人の夫と1992年に結婚、以後マニラに暮らす。趣味はダンスだが、最近は時間が取れないのが悩み。

 

 

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