ティコイは正月や旧正月が近づくと町で売られている、赤い蓋の箱に入った白くて丸い平らな餅です。フィリピンには昔から中華系の人々が多く住んでいるため、正月には縁起が良いとされる丸い物や赤い物を食べる習慣がありますが、中でも中華系フィリピン人にとって欠かせないのが、このティコイです。
日本でも正月に餅を食べますが、日本の餅との大きな違いは、作り方と味。ティコイはもち米の粉と砂糖、水を混ぜて蒸した甘い餅です。そのため福建語で「甘い菓子」という意味の「甜粿」と呼んだのが「ティコイ」の語源と言われます。一般に中国語ではこの餅のことは「年糕」(nian gao ニェンガオ)と呼び、「年々さらに良くなる」という意味の「年年高昇」の「年高」と発音が同じなため、給料や背などが高くなるという縁起担ぎをこめて食べるそうです。しかしフィリピンの人々は正月に餅を食べるのは、餅がくっつくので、幸運がくっつくから、とか、単に丸い物が縁起がいいからだと思っている場合が多いようです。中華系のフィリピン人は旧正月が近づくと旧年中にお世話になった人達にティコイを贈る習慣があるので、現在では中華系ではない人の間でもティコイを食べることが習慣化し、ティコイが無ければお正月らしくないと感じる人も少なくないようです。
中国では、この餅に関する言い伝えがいくつかあり、「台所の神様が毎年それぞれの家庭について天の神様に報告するが、その時良いことを報告すれば新年は良い年になり、悪い報告をすれば悪い年になるので、甘い餅をお供えすれば、餅で口がいっぱいになって報告ができない。そこで、甘い餅をお供えするようになった」というものや「昔ニェンと言う怪物がいて、山で動物を捕まえて食べていたが、冬になると動物が冬眠してしまうので人を食べようと里に下りてくると人々が恐れていた。そこでニェンが下りてくるころを見計らって、ガオという男が餅を家々の前に置いたところ、ニェンは餅を食べて満足して帰って行ったので、人々が感謝して作るようになった」など、様々な伝説があります。
マニラで売られているティコイは、ほとんどが白砂糖を使った白い餅ですが、ブラウンシュガーを使った茶色い物もあります。ケソン州ではティコイが独特な方法で作られ、ココナッツミルクやエバミルク(無糖練乳)、チーズや練乳を混ぜ込んだ茶色のティコイが有名で、ティコイ・フェスティバルという祭りのある町もあります。
ティコイの一般的な食べ方は、6-8ミリくらいの厚さに切り、溶き卵につけたものを少なめの油で揚げて、朝食として食べる方法です。これはマニラで一般的に売られている中華風のティコイでも、ケソン州オリジナルのティコイでも同じで、香港や台湾でも同じ方法で食べるそうです。日本人は朝から揚げた甘いお餅を食べることには抵抗があるかもしれませんが、スライスしたものを皿にのせて、そのまま電子レンジでちょっと温めて食べると食べやすいと思います。また新しい物はそのままでは柔らかくて切りにくいので、まず冷蔵庫に一晩入れて、硬くしてから切る方が切りやすいです。(悦)