ヒトを見た目で判断するべからず 美味&滋養豊富な魚の教え

 

 

 フィリピンでレチョン・バボイといえば、ご存じ豚の丸焼き。では、今回のレチョン・ヒトは日本人が聞いたら人間の丸焼きか? と猟奇ホラーなものを想像してしまいそうだ。写真を見たら、なんだか木の棒を焼いたように見えなくもない。

 

マカティ市ランドマークショッピングセンター・フードコートにあるイロンゴ・グリルのナマズ丸焼き(145ペソ)

 

 だが、これはれっきとした焼き魚である。タガログ語でヒト(Hito)というのは、ナマズのことで、すなわちナマズの丸焼き。どうしてナマズをヒトと呼ぶのか? 日本語でヒトは人間のことなので紛らわしく、時としてドキッとさせられると、率直にフィリピン人に言った。すると、言語学者でもなんでもない彼女は「なぜ日本語で人間をヒトと呼ぶのか?」と返してきた。ごもっともである。

 

 

 スペイン語でナマズはシルーロ(Siluro)といい、ヒトとは結びつきそうにない。マレー語では、イカン・ケリ(Ikan Keli)、インドネシア語ではイカン・レレ(Ikan Lele)。ここにもヒトとの共通点は見い出せない。

 

 

 英語でナマズはキャットフィッシュ。ヒゲを生やして愛嬌があるナマズの顔は、確かにネコに通じるものがある。フィリピン語で魚はイスダ(Isda)、ネコはプサ(Pusa)なので、ネコのような魚という意味のイスダ・プサにすればよかったのに。ちなみに英語のネットスラングで他人になりすますのをCatfishと言うのだとか。

 

 

 さて、肝心のヒトの丸焼きの味だが、淡白であっさり、そしてほんのりとした甘みがある。身はやわらかく、簡単に骨から外れて食べやすい。気になる淡水魚特有の臭みはない。店でナマズの産地を聞いたが不明。おそらく養殖であろう。今朝パシッグ川で釣ったものです、と言われなくてよかった。

 

 

 とにかく、ヒトはティラピアやバグス(ミルクフィッシュ)よりはるかに上品な味で美味。そして疲労回復、動脈硬化予防、老化防止などの健康に良い効果も期待できるらしい。ナマズは釣りの対象魚としても世界中で人気で、まさに釣ってよし、食べてよし。その姿からは想像できないほどすばらしい魚である。ヒトを外見で判断してはいけないと、まさにナマズは身をもって教えてくれるのだ。(T)

 

 

(初出まにら新聞2023年12月28日号)