豆腐のスイーツ「タホ」に思う。

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2023年11月10日

 

 

 

 

朝食になるスイーツ

 

 このところ、朝8時30分ごろにマカティの会社の前でタホを買うのが日課になっている。タホは豆腐にタピオカがトッピングされ、黒蜜のような甘いシロップがかかっているスイーツ。 手軽に食べることができ、朝食としても人気だ。元々は中国発祥の食べ物で、タホという名前は福建語の豆腐に由来する。シンガポールなどの豆花(トウファ)は兄弟か親戚といえるだろう。

 

 筆者が毎朝買うのは1カップ35ペソのタホ。コロナ禍前はマカティ・セントラル・スクエア前で確か10~15ペソで買ったことを覚えているが、物価高のこのご時世、タホも例外ではない。サイズのバリエーションによって値段も異なると思われるが、一度35ぺソのを買ってから、「今日は小さくて安いものを」と小心者の筆者は言い出せないでいる。

 

重さ60キロを背負い歩く

 

 タホを売り歩く人をタガログ語でマグタタホ(Magtataho)と言う。ある日、いつも筆者がタホを買うマグタタホのおじさんにいろいろ聞いてみた。

 

 名前はクラロ・G・ヘンソンさん。毎朝4時に首都圏パサイ市の工場へ行き、タホを仕入れる。アルミ製の大きな容器に入ったタホは仕入れ値4,500ペソ、重さ60~70キロ、約250カップ分。1日8~9時間売り歩き、利益は約500ペソという。 1カ所に留まって販売するタホ売りもいるが、クラロさんは客が待ってくれているところを歩いて周る。片方にタホが入った60キロのバケツ、もう一方にはタピオカやシロップが入ったバケツを天秤棒に下げ、肩に背負って歩く。いわずもがな重労働だが、「待ってくれているお客さんがいるから、雨でも、台風の日でも、基本的に毎日働く」と言う。タホ売りを始めたのは2004年から。これまでサウジアラビアや台湾の石油精製プラントで働いたこともあるという。

 

 

タホを売るクラロさん(57歳)。5人の子どもがいて、息子さんはメカニカル・エンジニアとして日本に行くことになっているそう。

 

 

 
未来のタホ売りを想像

 

 タホはコンビニやスーパーマーケットでも売っているが、それらは一般に冷やしてあって、硬めに仕上げてある。人肌の温かさで、スプーンを使わず飲み物のように流し込んで、絹ごし豆腐ののどごしを楽しむなら、やはりマグタタホから買うのがおすすめである。ローカル色が強いバランガイの住宅街では、マイカップを持ってきてタホを買うそうだ。この方が使い捨てのプラスチックや紙コップを使うよりも環境にやさしい。

 

 日本でも昭和の時代は豆腐を売る行商が、家の近くにきた。鍋を持っていくと、それに豆腐を入れてくれた。このような光景は、日本ではもう見られなくなった。タホ売りはそのような運命をたどらないで、マニラの風景の一つであり続けてほしい。そう思う一方、並々ならぬ重労働のことを考えると、軽々しくそのようなことを言うのはどうかとも思ってしまう。ならば、電動自転車に乗って颯爽と現れて、タホを売って去っていく。そんなマグタタホが現れる日を期待したいと思う。

 

 

ルソン地方北部のイチゴの産地バギオやラトリニダッドには、ストロベリータホがある。

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