雪のないマニラで冬を思う

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2021年1月13日

 

 先日、日本の実家があるところで35年ぶりに1メートルを超える積雪があった。BBCワールドの天気予報で、日本でもマイナーな地名にもかかわらず「トヤマで大雪」と言っていて驚いた。母に電話すると去年は雪が積もらなかったのに、今年は近年まれにみる大雪で、1月11日に家の前を業者に頼んでショベルカーで除雪してもらったという。

 

除雪車(イメージ写真)

 

 こういう話を聞くと、自分が実家にいれば業者に数万円払って除雪をしてもらわなくてもいいのに、マニラにいる親不孝をお許しくださいという気持ちになる。今はコロナ禍で一時帰国はできないというよりも、冬に日本へ行きたいとは思わない親不孝者である。数年前、10数年ぶりに日本の冬に帰った時、寒さで頭が痛い、朝起きられない、外に出たくないという状態になり、私の体は北陸産の寒冷地仕様だったけれど、すでに温暖な東南アジア仕様となってしまっていることを実感した。

 

 

 雪が積もった実家の周りの写真をフィリピン人に見せると、一様に「わー、きれい」とか「I miss snow in Japan」などど返してくる。雪が降らない国の人にしてみたら、一度は見てみたいし、触ってみたいものかもしれない。しかし、私にとっては雪はスキー場にさえ降ってくれればいいものであって、昔、登校前に雪かきしなくてはならなかった面倒な思い出しかない。白い悪魔である。

 

 

 つくづく雪のない東南アジアはいいと思う。東京で重い冬物のコートを背負って満員電車に乗り、毎日よく通勤していたものだ。冬物の服がいらない生活は、私にとって出費を抑えるのにも、家のクローゼットのスペースの節約にも役立っている。

 

 しかし、東南アジアの人々が冬服とは無縁かというと、違うようだ。

 

マニラで冬服を買う人々

 

 以前シンガポールでは、欧米のファッションブランドの店で10月頃になると「秋冬物コレクション入荷」と書かれ、また1年中冬物の衣類を専門に売る店まで登場したのを見た。その後、これらの店では日本など海外で冬を楽しむために海外旅行に行く人たちが、こぞってジャケットなどを買っていくと知った。北海道に家族全員でスキー旅行に行くためにウェアを買いそろえ、帰国時にホテルにそのまま残していく富裕層もいるという。ホテル側が忘れ物だと思って連絡すると、今年はもう着ないから処分してくれと頼まれたという話も聞いたことがある。

 

 

 マニラに来て間もない頃、首都圏マカティ市の商業施設にある某有名日系ファッションブランドの店舗が12月に冬服を買い求めるフィリピン人でにぎわっているのを見て驚いた。フリースやダウンをいくつも試着しては、鏡の前でポーズを取る若いフィリピン人女性が何人もいた。寒い海外へ旅行で行く人、そして、エンターテイナーとして働くために日本へ行くフィリピン人女性たちの間でも、冬に行くならこの日系ブランドの保温効果がある機能性Tシャツ、ダウンジャケット、フリースは定番アイテムらしかった。決して安い買い物ではないが、本人が支払うとは限らないようである。

 

(イメージ写真)

 

 今はコロナで海外に行くことが厳しいが、昨年12月にマカティのこの日系ファッションブランドの店舗に行った同僚によれば、例年同様の大にぎわいで、レジには長蛇の列ができていたそうだ。日本がまだ寒いうちにコロナが終息したら、すぐに旅行するために冬服を買っているのだろうか。それとも、次の冬のために買っているのだろうか。

 

 

 このブランドが、こんなふうに冬物の需要があることを見込んでフィリピンに出店されたかどうかは定かではないが、ビジネスチャンスは意外なところにもあるものだと思い知る次第である。 (T)     

 

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