もう3年ほど前になるが、夕方になるとマカティの会社近くに屋台が出た。いわゆるストリートフードを売る屋台なのだが、衛生面が心配で「ガラスの胃袋」を持つ私としては試す勇気がなかった。そんなある日、フィリピン歴が長い会社の同僚が地元のフィリピンの人たちに混じっておいしそうに食べているのを見て、思い切って食べてみた。これがパーレス(またはパレス/Pares)との出会いだった。牛肉の小さな角切りとネギの具が入った肉汁のあんかけライス。35ペソくらいだったように思う。私はすっかりはまってしまって、食あたりを起こすかもしれないという心配などすっかり忘れて通い詰めた。ガラスの胃袋がいい気なものである。
パーレスを出す店や屋台があれば、すかさず行くほどのめりこんだが、そのうちパタッとパーレスを食べなくなり、すっかり私の中からパーレスが消えて数年が過ぎた。そして先頃、パーレス・ポイントという店が会社から徒歩圏にあると知り、私の中のパーレスへのパッションがいきなり再燃したのである。
ランチタイムにさっそく行ってみた。ビーフパーレスのレギュラーが90ペソ、スペシャルが120ペソ。昔、屋台で食べていたのに比べると数倍の値段ではあるが仕方あるまい。スペシャルを持ち帰りで注文した。
牛肉の小さな角切り、ネギ、厚揚げ豆腐、ゆで卵が載り、ショウガやハーブのようなアクセントも感じられる濃厚なグレービー。私が一番好きなフィリピン料理はパーレスかもしれない。パーレス推しとしては、シニガンやアドボのようにもっと有名になってほしいものである。おそらく海外でも知られていないであろう理由は、あまりレストランでは出てこないストリートフードだからか。
屋台料理で観光客誘致を
東南アジアでストリートフードといえば、タイのバンコクやマレーシアのペナン、シンガポールなどが有名で、観光客も手ごろな値段で楽しめるB級グルメを目当てに訪れる。こうしたほかの東南アジアの国に比べると、フィリピンはまだ美食の国としては認知されていないように思う。パーレスのようにおいしいものはあるのに、積極的に売り込んでいないせいか残念である。
シンガポールでは2016年に屋台(ホーカー)料理がミシュランの星を獲得し、世界的な話題となった。当時実際その店に行ってみると長蛇の列で、2時間以上待ってようやく2シンガポールドル(約160円)のチキンライスにありついた。その店は海外展開を果たし、フィリピンではホーカーチャン(Hawker Chan)という店名でモール・オブ・アジアや、マカティのグロリエッタに出店している。
いつかミシュランのマニラ版が出て、パーレスを出す店が星を獲得し、世界を驚かせる。ジョリビーもパーレスのチェーン展開を手掛けるようになるかもしれない。そして、日本の牛丼チェーンのようにパーレスが世界の都市で親しまれるようになる。これが、パーレスを愛する私の夢である。(T)