前編では、アーティストを志したきっかけと、フィリピンに来てからの1〜2年の活動とそれ以来考えている創作の源ともなる思考について書きました。今回はフィリピンでの出会いや、今にいたる活動について紹介したいと思います。

 

 フィリピンのアーティストと交流するきっかけになったライブペインティングは、画家伊倉真理恵さんとの出会い、そして、マカティでのTIUシアターのオープンとともに拡大していくことになりました。当時マニラと日本を半々に拠点にしていた伊倉さんとはマニラで出会い、一緒に壁画を描くことがありました。その時の2人で描く楽しさ、そしてできた壁画が、それぞれの想像を超えた良いものになったという驚きから、2人でライブペイントをするパフォーマンスを始めました。

2014年TIUシアターの杮落とし公演でクジャクをライブペインティングで描いた伊倉真理恵さん(左)と筆者。

 

初の「個展」はユニークな日比交流イベント

 

 2014年には瓜生敏彦氏がマカティにTIUシアターをオープンする際に声をかけていただき、伊倉さんとのライブペインティングショーで杮(こけら)落とし公演を行いました。その後2年にわたって、日比交流を軸にTIUシアターでライブペイントの公演を行いました。それは、毎回日本からミュージシャンを招き、フィリピンのアーティストやダンサーなどとコラボしたショーでした。

 

2015年TIUシアターでの日比交流ライブペインティングショー

 

 2015年には前編でお話したアーティスト、エイズ・オンの紹介で、ついにフィリピンで初めて個展を開く機会を得ました。それは、「個展」ではあるのですが、ちょっと変わったおもしろい機会でした。

 場所はマニラから車で3時間ほどのブラカン州バリワグ市(Baliwag)。会場は田舎の風景の中、ぽつんと建つ大きなショッピングモール、SMシティバリワグです。日本との交流の歴史を記念するイベントとして、バリワグ市が私の個展を開催してくれたのです。私の作品は全く歴史的でも日本的でもなく、むしろ内省的なのですが、そのあたりはあまりこだわりはないようです。

2015年SM シティバリワグでの個展オープニング

 

 オープニングイベントで伊倉さんも招いてライブペイントを行ったり、フィリピン大学の民族音楽グループの公演があったり、にぎやかなものになりました。また当時の日本大使館公使の方にも来ていただき、テープカットを行うなど、貴重な経験になりました。

 

SM シティバリワグの個展を報じる英字紙「インクワイアラー」

 

 さらにこの年にはマカティスクエアのギャラリーアンダーグラウンドから声をかけてもらい、初めてギャラリーでの個展も開催。この個展をきっかけに、その後、マニラのギャラリーを中心としたアートシーンの中で活動が拡がっていくことになります。

 

日本的な素材を使い創作に変化

 

 2013年から考え始めた「フィリピンに住む日本人の自分とは何か」という問題。この答えを探る方法として、私は日本に関連する素材を作品に取り入れるようになりました。手すき紙、墨汁、折り紙などです。そして、その重要な素材の1つが、ベンゲット州に住む紙すき職人・アーティストである志村朝生さんの手すき紙でした。フィリピンのパイナップルやバナナの繊維から作った志村さんの紙を使い始めてから、私の表現方法が変化し始めました。頭で考えても答えが出ないことは、作り続けることによって何か一つの光が見えてくることがあります。私の場合、アイデンティティの問題は今もずっと持ち続けていますが、使う素材によって違う方向に思考が進み始めました。         (次号「後編」につづく)

2015年アンダーグラウンドギャラリーでの個展に展示した作品。志村朝生さんの紙を使用。

 

——————————————————————————————————-

文:山形敦子 

美術作家。2012年よりマニラ在住。主にフィリピンにて個展を開催するなど活動している。

近年の主な展示に、2020年個展『Do you hear it?』Art Informal Gallery(マカティ市)、2019年Mervy Puebloとの二人展『Transcendental』カルチュラルセンター・オブ・ザ・フィリピン(パサイ市)など。

フィリピン以外での展示は、2017と2019年に群馬県中之条町で行われる中之条ビエンナーレに参加。2017年は札幌市のJRタワーホテル日航札幌で個展を開催。その他シンガポールやマレーシアでグループ展に出展している。

またミュージシャンと協業し、ライブで絵を描くライブペインティングも行う。プロフィール写真は2019年11月にマカティ市TIU Theaterで開催したジャズとライブペイントの公演『Jazz En』での公演中の写真。

2020年現在は日刊まにら新聞にも所属。最近の趣味は料理を作って美味しそうな写真を撮ること。

ウェブサイト:https://atsukoyamagata.com/