マニラ・アート徒然 #5 How I became an Artist(前編)

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2021年1月4日

 先月、偶然にも2回ほど、日本の学生の方に自分の活動を話す機会がありました。一つは、海外に興味がある就職活動を控えた学生の方向けの企画、もう一つは、長年フィリピンに関わるアーティストであり、法政大学教授の稲垣立男先生に声をかけていただいた企画です。フィリピンのアートに携わる2人の講演者の方と、稲垣先生のゼミ生向けに話しました。そこで、今回のアート徒然では、私がどんなことを考えて作品を制作し、どんな活動をしてきたのかを紹介したいと思います。

 

 私は美術大学を卒業しているわけではなく、東京外国語大学を卒業して日本で会社員をしていました。幼少の頃から、自分の考えや感情を整理するためなどにひっそりと絵は描いていましたが、人に見せようと思ったことはありませんでした。 

 

スペインでの災難転じて・・・

 

 大学卒業後にスペインでバックパッカー旅行をしていた時のこと。虫に刺されて歩けなくなりました。そして宿で安静にしていた2週間、ひまなのでずっとクレヨンで絵を描いていました。
 日本に戻ってから友人にこのスペインでの経験を話すと、グループ展への参加をすすめられました。人に絵を見てもらう機会を得たことで、作品を客観的に見てもらう意味を考えるようになり、2006年から会社員をしつつ、年に1回ほどグループ展などで作品を発表するようになりました。その後、2012年に家族の都合でマニラに来たことをきっかけに、アーティストとして生きようと人生を転向したのです。

 

 マニラに来てから、まずはマニラのアートのさまざまなイベントに顔を出しました。フェイスブックで検索し、自分の動ける範囲でいろいろ行ってみました。日本にいる頃からライブペインティングをやっていたので、それを切り口に話し、さまざまなイベントで披露する機会に恵まれました。おもしろそうと思ったらすぐに声をかけてくれたり、「やってみたらいいじゃん」的な話を気軽にしてくれたりするのはフィリピン人の温かくていいところだと思います。そんないい意味での軽さの半面、ドタキャンのようなことも多いのですが。
 2012年から13年の間に、たくさんの知り合いができ、貴重な出会いもありました。まだまだアートに関しては知識や思考的にも素人だったと思いますが、次の行動につながる足掛かりができました。

 

2012年、マウンテンプロビンスでのコーディリエラ・グリーン・ネットワーク主催「エコ・アートフェスティバル」でのライブペインティング。紙すき職人の志村朝生さんと出会い、その後志村さんのパイナップル繊維の紙を作品に使用するようになった。

2013年、BGCハイストリートでのライブペインティング。

 

 

マニラでの苦悩と創作の源

 

 2014年にかぎ針編みで立体作品を作るアーティスト、エイズ・オンと、日比の女性アーティストのグループ展を企画しました。そのグループ展は3回、ノバギャラリー(マカティ市)、ムセオ・パンバタ(マニラ市・子供のための美術館)、オルリナ美術館(タガイタイ市)で行いました。そこでさらに縁がつながり、2015年からはギャラリーで個展を開くようになり、それ以降、私は主にマニラのギャラリーと仕事をしています。

 

2014年、グループ展のために制作した作品。アイデンティティの問題を模索する過程で、墨汁など日本的な素材を使用することで探ろうとし始めた。

2014年に開催した女性だけのグループ展「現Gen:Ngayon」(ノバ・ギャラリー)のポスター。

女性だけのグループ展「現Gen:Ngayon」(ノバ・ギャラリー)の展示風景。

 

 2013年、絵を制作する際に、これでいいのかと考えるようになりました。その頃私は、海外在住の外国人が当たり前に感じる壁にぶつかっていました。それは、「フィリピンに住む日本人の自分とは何か」という問題です。私が日本人なので、フィリピンのアーティストたちから日本のアートや思考について問われます。自分が外国人(よそ者)であることも常日頃感じました。しかし、今まで日本のアートを研究してきたわけでも、日本についてよく知っているわけでもありません。私の中に何か、生まれ育ってきた国の要素は確実にあるはずなのに、それを自分で発見できていないのです。また、フィリピンという国と人々に対し、日本人であり表現者である自分はどう向き合っていくべきか、ということも考えなければならないと感じていました。まだ答えは出ていません。ただ、これが私がマニラに来てからずっと持ち続ける問いであり、創作の源になりました。(次号につづく)

2014年、オルリナ美術館(タガイタイ)で一緒に展示したアーティストたちと。

 

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文:山形敦子 

美術作家。2012年よりマニラ在住。主にフィリピンにて個展を開催するなど活動している。

近年の主な展示に、2020年個展『Do you hear it?』Art Informal Gallery(マカティ市)、2019年Mervy Puebloとの二人展『Transcendental』カルチュラルセンター・オブ・ザ・フィリピン(パサイ市)など。

フィリピン以外での展示は、2017と2019年に群馬県中之条町で行われる中之条ビエンナーレに参加。2017年は札幌市のJRタワーホテル日航札幌で個展を開催。その他シンガポールやマレーシアでグループ展に出展している。

またミュージシャンと協業し、ライブで絵を描くライブペインティングも行う。プロフィール写真は2019年11月にマカティ市TIU Theaterで開催したジャズとライブペイントの公演『Jazz En』での公演中の写真。

2020年現在は日刊まにら新聞にも所属。最近の趣味は料理を作って美味しそうな写真を撮ること。

ウェブサイト:https://atsukoyamagata.com/