マニラ・アート徒然#9 フィリピン美術の大御所の名を冠したコンドミニアム

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2021年5月10日

 

 

     マニラ首都圏マカティ市の高級住宅街、ロックウェルセンター。パワープラントショッピングモール、高級コンドミニアム、アテネオ大学のビジネススクールなどがあり、日本人の方も多く住んでいる地区ですね。そのロックウェル内にあるコンドミニアムの名前が、フィリピンの画家たちの名前にちなんでいるのはご存知でしょうか。ルナ・ガーデンズ(Luna Gardens)、イダルゴ・プレイス(Hidalgo Place)、アモルソロ・スクエア(Amorsolo Square)、エダデス・タワー(Edades Tower)、ザ・マナンサラ(The Manansala)、ホヤ・ロフトアンドタワー(Joya Lofts and Towers)。これら6つのコンドミニアムにフィリピン美術史の大御所アーティストの名前が付けられているのです。

首都圏マカティ市ロックウェルセンター

 

フィリピンの歴史に名を遺す美術家

 

 「ルナ・ガーデンズ」のフアン・ルナ(Juan Luna)と「イダルゴ・プレイス」のフェリックス・レスレクシオン・イダルゴ(Félix Resurrección Hidalgo)は、ホセ・リサールと同時代の人物。スペインに留学してアカデミックな美術を学びました。2人は1884年、マドリードの美術展で植民地出身の画家として初めて賞を受賞。ルナは金賞、イダルゴは銀賞を取りました。ルナの受賞作『スポリアリウム』という巨大な絵画は、現在フィリピン国立美術館に所蔵されています。この作品は、古代ローマで殺された剣闘士が、死体置き場へと引きずられていく間に衣服や武器が略奪される姿を描いており、ホセ・リサールは植民地支配に苦しむフィリピンの人々だと解釈し、2人の受賞により独立の気運を高めました。

 

ファン・ルナ作『スポリアリウムSpoliarium』フィリピン国立美術館

 

 「アモルソロ・スクエア」は、ルナらの次の時代、20世紀前半に活躍した画家、(フェルナンド・アモルソロ(Fernando Amorsolo)にちなみます。フィリピンの田舎の風景や働く女性の姿をロマン主義的な手法で美しく描いています。当時の富裕層や統治国のアメリカ人に大変な人気を誇ったといいます。
 1972年、彼はフィリピン初のナショナルアーティストに選ばれました。マカティ市のアモルソロ通りには、彼の像が設置されています。

 

フェルナンド・アモルソロ

 

 

フィリピン近代美術の礎を築く

 

 「エダデス・タワー」のヴィクトリオ・エダデス(Victorio Edades)は、アモルソロが人気を博す20世紀前半のフィリピン美術界で、近代美術の一石を投じた作家。『フィリピン近代美術の父』と呼ばれています。エダデスは1938年に「Thirteen Moderns(13人の近代美術)」というグループを結成し、そのメンバーの多くが、現在のフィリピン美術の礎(いしずえ)を築いたとして評価されています。

 

ヴィクトリオ・エダデス

 

 

 「ザ・マナンサラ」のヴィセンテ・マナンサラ(Vicente Manansala)は、そんなエダデスが作った13人の近代美術メンバーの1人でした。マナンサラは、フィリピンの人々の生活をキュビズム(立体派)で描いたことで有名です。

ヴィセンテ・マナンサラ作品記念切手

 

 「ホヤ・ロフトアンドタワー」のホセ・ホヤ(Jose Joya)は、戦後に活躍した抽象画家で、フィリピン大学美術学部の学部長も務めました。

 

 

 アモルソロ、エダデス、マナンサラ、ホヤは全員ナショナルアーティスト。日本でいう文化勲章の受章者といったところでしょうか。これがもし日本だったら、マンションの名前が、「北斎タワー」「広重プレイス」「ザ・光琳」「ガーデン若冲」なんて名前になるのでしょうか。そう思うと、ちょっとおもしろいですね。

 

(写真:Wikimedia Commons)

 

 

 

文:山形敦子 

美術作家。2012年よりマニラ在住。主にフィリピンにて個展を開催するなど活動している。

近年の主な展示に、2020年個展『Do you hear it?』Art Informal Gallery(マカティ市)、2019年Mervy Puebloとの二人展『Transcendental』カルチュラルセンター・オブ・ザ・フィリピン(パサイ市)など。

フィリピン以外での展示は、2017と2019年に群馬県中之条町で行われる中之条ビエンナーレに参加。2017年は札幌市のJRタワーホテル日航札幌で個展を開催。その他シンガポールやマレーシアでグループ展に出展している。

またミュージシャンと協業し、ライブで絵を描くライブペインティングも行う。プロフィール写真は2019年11月にマカティ市TIU Theaterで開催したジャズとライブペイントの公演『Jazz En』での公演中の写真。

2020年現在は日刊まにら新聞にも所属。最近の趣味は料理を作って美味しそうな写真を撮ること。

ウェブサイト:https://atsukoyamagata.com/

 

 

 

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