フィリピンの言葉

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2014年11月29日

[フィリピンには100以上の言葉]

フィリピンは、少数の話し手がいる地方語を入れると100以上の言語がある多言語国家だ。地方に行けば島ごとに微妙に言葉が違っていたりする。
主な地方語には、マニラを中心に話されているタガログ語、ルソン島北部のイロコス地方で話されているイロカノ語、ルソン地方のパンガシナン語、同カパンパガン語、ルソン島ビコール地方のビコラノ語、セブを中心にビサヤ地方で話されているセブアノ語、レイテ島やサマール島で話されているワライワライ語、ネグロス島の西側やパナイ島で話されているイロンゴ語、ミンダナオ島サンボアンガ州で話されているスペイン語との混成言語「チャバカノ語」などがある。各地方語は方言というレベルを超えて、まったく別の言語に近いほど語彙が異なっている。しかし英語は全土で通じるので旅行者にはありがたい。

[国語はフィリピン語、英語も公用語]

1987年制定の憲法は、マニラ首都圏を中心に話し手がたくさんいるタガログ語を母体とした「フィリピン語」を国語と定め、かつ、フィリピン語と英語を公用語と決めた。タガログ語とフィリピン語の呼び名が混同して使われているが、「タガログ語=フィリピン語」と考えていい。あえてその違いを言えば、前者が東京の山の手言葉、後者はNHKのアナウンサーが使っている標準語と思えばいい。タガログ語は「ディープな言葉」とも言われている。政府は言語による国の統一をはかるため、国家語であるフィリピン語の普及に力を入れてきた。映画やテレビ番組、ニュースなどを通して、現在では全国の津々浦々でこのフィリピン語が通用する。
タガログ語が母体になったのは、スペイン時代からマニラに政庁が置かれ、その後も時代は変わってもマニラがフィリピンの首府であり続けたという政治的な理由からだ。必ずしも最強の言語であったからではない。話し手の数でいえば、セブアノ語が勝っていたとの説もあり、このためセブでは言語ナショナリズムともいえるフィリピン語への反発もあった。今でもセブの人たちは日常会話では、フィリピン語を知っていてもまず使わない。ちょうど大阪人が関西弁に愛着を持っているのに近い。
もう一つ公用語である英語は、法律や法令、商談、契約などビジネス、大学での授業などで広く使われている。英語が流暢に話せることはフィリピンでは高いステータスになる。しかし最近ではフィリピン語普及の教育が裏目に出て、若者の英語力が低下したとの指摘もある。アメリカ式の高等教育を受けた70歳代以上の老人たちが話す英語はときに、流暢ですばらしいものがある。

[中国人は家庭では中国語]

中国人の子弟は中国人学校で中国語の教育を受けることが多いので、家や学校では中国語、家の外では英語やタガログ語、さらにそれぞれの地方語も話せるなど、マルチリンガルが多い。フィリピンの中国人は地理的にフィリピンと近い広東や福建省など南シナ海(西フィリピン海)の沿海地方の出身者が多いことから、彼らの話す中国語は広東語や福建語である。

[フィリピン語の特徴]

日本語との大きな違いは、もともとフィリピンの言葉は「母音が3つ」ということである。「ア」と「イ」、それに「イ」と「エ」の中間音、さらに「ウ」と「オ」の中間音の3つである。「焼肉」が「焼き猫」に聞こえるのはそのためだ。しかしスペイン語の母音に引っ張られて、外国語にもまれたタガログ語などは5つの母音の区別ができている。しかしセブアノ語などでは必ずしもそうではなく、マニレーニョ(マニラ人}にはその人のタガログ語を聞いただけで「ビサヤ地方の出身者」とわかるそうだ。そのこともあって、ビサヤ地方のインテリたちの中にはマニラ人と話す際には、ともに他人の言葉である英語で話したがる人もいる。
日本語とのもう一つの大きな違いは、フィリピン語には英語と同じく「R」と「L」の明確な区別があることだ。このため日本人の話すフィリピン語や英語は当地の人にはたいへんわかりにくいようだ。一生懸命に英語でしゃべっていたら「申し訳ないが私は日本語が理解できないので英語で話してくれないか」といわれてすっかり自信をなくした日本人もいる。しかし職場や家庭などでは、日本人の英語発音を聞きなれたフィリピンの人たちは、このジャパニーズ・イングリッシュをよく理解してくれるようである。熱意があれば日本人英語も通じるのである。仕事では発音も大事だが、それ以上に話す内容が意味を持っている。

編集: 「ナビ・マニラ」 Navi Manila

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