ジンを愛するフィリピン人

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2023年12月7日

 

 

 

 ジンといえば、英国のようなヨーロッパで生産され、愛飲されている印象が強いように思う。だが、意外にも1人当たりの消費量はフィリピン人が世界で1番というのをご存知だろうか。筆者は個人的に苦い思い出ばかりのジンなのだが、どうしてもフィリピン人の友人たちと飲むときは、ジンを飲むことが多い。そこでフィリピン人のジン愛について考えてみた。

 

 

 

フィリピンを代表する
ヒネブラ・サンミゲル

 

 フィリピンでジンといえば間違いなくこれ、と思い浮かぶのがサンミゲルのジン、その名もヒネブラ・サンミゲルである。「飲みすぎたら失明必至」となんとも恐ろしいキャッチフレーズで知られるヒネブラは、1834年に製造が始まったというフィリピンジン界のパイオニアにして大御所的存在といえる。一度見たら忘れられない絵が描かれた瓶が、コンビニやスーパー、サリサリストアで売られているのを見たことがあるのではないだろうか。サイズも豊富で、ひとり飲みにピッタリの250ミリリットルから、大人数にも対応する700ミリリットルのものまで売られている。

 

 このヒネブラ・サンミゲルは、「ジンビログ」や「クワトロ・カントス」といった愛称で親しまれている。これはどうやら瓶の形に由来しているようだ。主にビログと呼ばれるのは円柱型をした小さいサイズのもの。ビログ(bilog)はタガログ語で円を意味し、ジンビログの呼び名がついたと考えられる。価格は1瓶およそ65~70ペソ。一方のクワトロ・カントス(kwatro kantos)は角瓶を指す。これもスペイン語由来のタガログ語、4を意味するクワトロと角のカントスから来ており、価格は135ペソ前後。手頃な価格で、庶民が気軽に楽しめる酒の代表といえるだろう。

 

 

クワトロ・カントスと呼ばれる角瓶入りヒネブラ・サンミゲルとアップルジュースのミックス

 

 

 

ジンを飲むのはなぜ?
酔うためだ!!

 

 ヒネブラは、世界で1番売れているジンとされている。水、アルコール、砂糖ととても質素な原料でできているヒネブラのアルコール度数は40度。個人的には、とてもおいしいとは思えないが、なぜそんなジンを飲むのか、酒好きのフィリピン人に聞いてみた。すると、そんなことを聞く私に呆れたような反応を見せつつ「酔っぱらうために決まってる」と返ってきた。安く、間違いなく酔える、コスパが最高な酒なのだ。味は関係ないようである。

 

 

 

フィリピン流
ジンの飲み方

 

 ジンを飲むのは酔っぱらうためと威勢はいいが、フィリピン人なら誰もが酒に強いなんてことはない。実は、フィリピン人の間では、アルコール度数を少し下げて飲みやすくするという飲み方があるのだ。ジンを飲むときは、ショットグラスで少量のジンをカッと流し込んだ後、コーラやスプライトなどのチェイサーを飲む方法と、粉のジュースの素を水に溶かして作ったジュースで割る方法の2つがある。前者は明らかに酒好きの飲み方だが、後者はどんな人でも比較的飲みやすくなる。割ることでジンのアルコール度数が中和されるだけでなく、ジュースも好きな味を選べばそれなりにおいしく飲むこともできる。これにさらにライターを使ってアルコールに火をつけることで、より飲みやすくなるのだとか。ジュースとヒネブラを混ぜ合わせた後、少量を瓶に戻し、ライターの火を瓶に近付ける。すると瓶内全体に火が回り、中身が泡立つ。そうしたら瓶を軽く振ってから、ジュースとヒネブラを混ぜ合わせた容器に戻す。これを何度か繰り返すと、アルコールが弱まり、飲みやすくなるんだそう。以前筆者も試してみたことがあるが、確かにとても飲みやすく感じた。しかし、「そんなのはただの気休めで、実際は何の意味もない」と言う人もいる。確かにそういわれると、本当に効果があるのか、プラシーボ効果的なものだったのか、なんとも言えないところではある。

 

 

 日本人同志ではあまり飲む機会がないであろうヒネブラ。これも1つの異文化体験と思って、ぜひ試しに1度飲んでいただきたい。そしてフィリピン流アルコール度数の下げ方も試し、実際に飲みやすくなるのかどうなのか、検証していただきたい。(新)

 

(初出2023年11月6日付まにら新聞)

 

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