マニラの自宅で納豆をつくる

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2020年8月28日

フィリピン暮らしで気になるモノ・コト

 

 

納豆の思い出

 

 海外に長期滞在していてもそれほど和食が恋しくなる方ではないのだが、納豆だけは無性に食べたくなる時がある。納豆がなくては生きていけないかもしれない。振り返ってみると、これまで長期滞在した東南アジアの国では、なんとか納豆を買って食べることができていた。

 

 2010年 頃、ベトナムのホーチミン市ではなぜか某日系の不動産会社が自家製納豆を売っていて、1カップ約20グラムで当時確か5,000ドン(約23円)のものを1ダースほどまとめて買っていた。不動産と納豆にどのような関係があるのか今思い出しても不明だが、当時はありがたく買いに行っていた。

 

 シンガポールでは、日系のスーパーマーケットはもちろん、2014年ごろからローカルのスーパーマーケットでも日本食品コーナーが登場し、納豆も売られていた。行きつけのスーパーでは、アイスクリームといっしょに納豆が冷凍コーナーにあった。日本でもおなじみの3段重ねで、何種類かブランドがあり2ドル50セントから4ドル(約195円~310円)。「日本だったら68円とか98円なのに」と思いながらも「輸入品だからしょうがない」と、自分に言い聞かせて買っていた。

 

 さて、フィリピンのマニラである。首都圏マカティ市で私の生活圏にある日本食材店で3段重ね88ペソのものを買っている。このように日本の外でも納豆を買って食べることができるのは、ありがたいことだ。ほかの和食がどんどん国際的に人気が出るのに対し、日本の納豆は今のところ世界進出は考えていないようである。外国人ウケがいいとも聞かない。日本の納豆は日本人が楽しむ孤高の和食なのだ。

 

自家製納豆は愛しい

 

 そんな孤高の納豆を、コロナ禍によるロックダウン中、私はやたら時間があるのにまかせて自分でつくってみた。作り方はネットにたくさん出ている。

 

この糸を見た時の感動を私は忘れないであろう。納豆菌ががんばってくれたおかげである。

 

 大豆はマカティのウォルターマートで250グラム25ペソ。安い。500グラム分買った。その大豆を洗って炊飯器で蒸す。圧力鍋がない場合は炊飯器で代用できるというのを信じてやってみた。蒸し上がった大豆を容器に入れ、納豆半パックほど混ぜる。そのあと温めて発酵させる方法もいくつか紹介されていたが、私はお湯を入れたペットボトルといっしょに毛布でくるんでおいた。1日経ってから冷蔵庫へ入れ、さらに1日。ちゃんと納豆が発酵してできているか気が気でならず、会社にいても仕事が手に着かない、ということはなかった。いよいよ、開ける時が来た。

 

 大豆をすくってみると、糸が! 糸が引いた! 最近で一番感動した瞬間だったかもしれない。食べてみると、やや硬かったが、自分で作った納豆は愛しい。我が子を慈しむように食べた。料理などほとんどしたことがない私に納豆をつくる日が来ようとは。

 

 納豆ができた頃は、食べても食べてもまだまだある納豆がうれしくて仕方なかった。しかし、何日も何日も食べ続けているとさすがに飽きてきた。市販のものと違って硬い食感のせいもある。この数日は納豆を見たくもない気分だ。このまま納豆が嫌いになってしまうのだろうか。あれほど好きだったのに。

 

 過ぎたるは及ばざるがごとし。(T)

 

(初出2017年5月4日まにら新聞を再編集)

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