クリスマスが近づくとスーパーに並ぶ、赤くて丸い物。これがケソ・デ・ボーラです。ケソ・デ・ボーラ(Queso de Bola)とは「ボール形のチーズ」のこと。フィリピンではクリスマス・イブの真夜中の食事に欠かせませんし、また新年の縁起物としても必ず登場します。もちろん赤いパラフィン・ワックスは剥して、中のチーズだけを食べます。
このケソ・デ・ボーラ、実はエダムチーズというオランダのエダム地方発祥のチーズです。オランダではゴーダチーズに次ぐ生産、輸出量を誇り、赤いワックスは輸出用の物だけにかけてあります。エダム・チーズは比較的熟成がゆっくりで、長時間の輸送にも耐えられるため、14世紀から18世紀の大航海時代に重宝され、航海に出る船には大量に積み込まれるようになりました。大砲の球がわりに使われたという話もありますが真偽のほどはわかりません。最初はオランダの船だけに積まれていたものが、のちにスペインの船にも積み込まれ、スペイン領だったフィリピンやメキシコ、ラテン・アメリカ諸国にも伝わりました。
しかしフィリピンで一般的になったのは、もっと後のアメリカ植民地時代。1900年代にスイスからフィリピンに移民し、ズエリグ・ファーマを設立したズエリグ氏が、その食品部門でオランダから輸入したのがきっかけとなったようです。これが現在でも入手可能なマルカ・ピーニャというブランドです。その後、製薬部門に集中するため食品部門は閉鎖され、紆余曲折を経て現在ではウィルミントン社がフィリピンへの輸出をおこなっていますが、この会社では毎年117万トンのエダムチーズを生産し、そのうち20万トンがフィリピンのために特別生産され、輸出されています。冷蔵庫の無い家庭で高温多湿の環境で保存されることを想定し、フィリピン向けのものは塩分含有量が高くしてあるそうです。
フィリピンでは、このチーズをスライスして、パン・デ・サルにはさんで食べるのが最も一般的ですが、メキシコでは中をくりぬいて、肉とレーズン、ケッパーとオリーブを詰め、トマトソースをかけた「ケソ・レリエノ」(詰め物入りチーズ)という料理にします。チェコやスロバキアでは、このエダム・チーズにパン粉をつけて揚げたチーズフライが有名です。クセがなく、マイルドな味のエダムチーズは、フルーツやワインなどともよく合い、チーズおろしでおろして粉チーズとして使うこともできます。フィリピンのエンサイマーダ(本コラム第10回で紹介)の上に乗っているチーズも、このチーズをおろしたものが主流です。
このチーズはクリスマスから新年の期間に出回りますが、それ以外の季節にはあまり見かけません。マグノリアやチェ・ヴィタル、デーンズなどのローカル商品の他、上記マルカ・ピーニャやマルカ・パトなどの輸入品、オランダのチーズ・メーカーとして有名なフリコなどの物などサイズや値段も様々。皆さんも食べくらべて、お気に入りのケソ・デ・ボーラを見つけてみてはいかがでしょうか。
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