歳月が醸成した平和を希求する心

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2019年5月10日

タリサイ上陸記念日

1945年3月26日朝、セブに近接するタリサイの海岸にアメリカ陸軍12000人が、艦砲射撃と航空部隊の援護を得て上陸してきました。ほぼ3年前に日本軍が上陸したのと同じ浜です。8月15日の敗戦まで続く比日米の軍民に多くの犠牲者を出すセブ島での戦いの始まりです。隣のレイテ島では既に前年10月に連合軍との間に熾烈な戦闘が繰り広げられ、日本軍は壊滅的な損害を被って敗退しています。
この海岸では毎年タリサイ市の主催で上陸記念式典が行われています。ボホール島を間近に臨む海に面した式場では、フィリピン、日本、アメリカの国旗が各国の国歌と共に掲揚され、式典が始まります。本来は日本人は足を向けにくい行事でしたが、10余年前からセブ日本人会の石田武司氏が参加し、今ではステージ上で要人とともに並ぶ氏の姿は恒例になっています。近年では氏の誘いで参加する邦人も徐々に増えてきています。市や州の関係者によるスピーチが続き、軍や警察、青年のパレード、最後に国軍兵士や市民の参加する上陸を模したアトラクションで幕を閉じます。本物の上陸用舟艇に分乗した米軍兵に扮した兵士、迎え撃つ日本兵、海水や砂を巻き上げる火薬の炸裂は74年前にこの地で繰り広げられた悲劇を彷彿させます。かつては日本兵による狼藉などが演じられたのですが、石田氏の尽力により前向き、平和的な演出に変わってきました。今年は本来であれば敵対していた人々が一緒に踊って幕を閉じました。70年の歳月が比日米の人々の間に平和を求める心を醸成したのではないでしょうか。
最後に忘れてはならないのは、式典の始まる前に僧形の石田氏が早朝の砂浜にささやかな祭壇を設け、戦没者に向けて読経する姿がある事です。線香の煙、真水、酒、タバコが菊の花と共に手向けられています。

 

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