フィリピノ・ワールド Pasaway 言いつけに従わない人

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2020年6月6日

 みなさんこんにちは!Kumusta kayo? 新型コロナウイルスの影響で、フィリピンでは「強化されたコミュニティー隔離措置」(ECQ)という名の世界最長のロックダウンが行われました。イタリアやスペイン、アメリカのような感染爆発は避けられたとは言え、感染者数はアセアンでシンガポール、インドネシアに次いで多く、厳しいロックダウンの割に、感染者数が減らないまま、6月1日からGCQ(一般的コミュニティー隔離措置)へ移行しました。

 

 政府や警察によると、感染者が減らない理由は、市民が「Pasaway(パサワイ)」だから。パサワイとは、「決まりを守らないので注意せざるを得ない人」つまり「言いつけに従わない人」という意味です。家から出るなと言っても、言うことを聞かず、人々が外出するので感染者が一向に減らないというのです。
 ロックダウンが始まった当時は、徒歩で出勤しようとして検問所に集まった人たちが「パサワイ」と呼ばれたり、配給を受け取ろうと市役所等に人々が集まった際にも「パサワイ」として非難されたりしました。密に見えることもある角度で市場やショッピングモールの写真が撮られ、「パサワイが街に繰り出している」としてSNSで拡散されたりもしましたが、中には昨年の写真をあたかも今年の写真のように投稿されていたケースもありました。

 

 そして人々が様々な不便を我慢する中、首都圏警察(NCRPO)のチーフ、シーナス氏の誕生日会が開かれた事件が発生。シーナス氏曰く「あれは上官の誕生日に挨拶するマニャニータという習慣で、誕生日会ではない。せっかく開いてくれたのに断るのは紳士的でないと思った」のだとか。誕生会か否かに関わらず、警官たちが集まり、禁酒令もソーシャルディスタンスも無視して飲食したり記念写真を撮ったりしたのが、なんと警察の公式フェイスブックページに掲載されていたのですから言い訳の余地はありません。取り締まられる側の一般市民に対しては「法律は法律」「市民はパサワイ」として厳しく取り締まりながらも、自分達はパサワイではないとでも考えていたのでしょうか。しかし警察だからといってウイルスが大目に見てくれるわけではありません。5月28日の時点でフィリピン国家警察(PNP)の感染疑い例は、Probable(非公式陽性)が717件、Suspected(接触者及び症状有り、未検査)が637件、Confirmed(公式陽性確定)が302件となっています。検問などで不特定多数の人に接する機会が多いからこそ、より気をつけた方が良いのではと思わざるを得ません。パンデミックのような緊急時には人間の本性が露呈しがちだと言われますが、フィリピンでは警察に限らず、このような特権階級意識が様々な形で現れたのは残念に思います。

 

バナナの葉の上にご飯やおかずを並べて「同じ釜の飯」ならぬ同じ葉から食事

 フィリピンは、もともとコロナウイルスの感染が拡散しやすい文化のある国でした。人と人の距離感が近く、一枚のバナナの葉の上にご飯やおかずを並べて、「同じ釜の飯」ならず同じ葉から食事をしたり、Tagay(タガイ)と言って一つのコップからお酒を回し飲みしたりする文化がある国ですし、知らない人とでも声を掛け合い、お喋りするフレンドリーさも、フィリピン人の特徴です。さらにフィリピン人にはDiskarte(ディスカルテ)と言って、「自分で工夫してなんとかする」という柔軟な性質もあり、それが都合よく規則を変えてしまうことにもつながりがちです。今後GCQ下でフィリピンは、コロナウイルスと共存するニュー・ノーマル、新たな生活様式を身に着けていくことができるのでしょうか。それともまた厳しいロックダウンに舞い戻ってしまうのでしょうか。皆様も今後とも情報収集を心掛け、安全に気をつけてお過ごしください。

 

文:デセンブラーナ悦子
日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人の夫と1992年に結婚、以後マニラに暮らす。趣味はダンスだが、最近は時間が取れないのが悩み。

 

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