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オンラインで生き延びるバギオ

2020年9月16日

 コミュニティ防疫が開始されてから6カ月。バギオはようやく9月21日から、半年ぶりに観光客の受け入れを一部再開することになりました。観光業が盛んなルソン地方北部バギオでは、コロナ禍の影響を受けた人々が、ビジネス、生活のためにさまざまな取り組みをしてきました。ロックダウン中のバギオのビジネスにはどのような変化があったのか。バギオ在住24年、環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表の反町眞理子さんによる特別寄稿です。

 

 

 新型コロナウィルスの感染拡大でバギオ市が封鎖(ロックダウン)されてからはや6カ月である。「封鎖」とはつまり、特別の用事がない限りはバギオから出入りができないということだ。生命線である食品の運送のためには許可証が発行され、また、市政府主導で地域ごとに食糧や日用品のローリング・マーケットがバランガイのバスケットコートなどにやってきてくれて、少なくとも食糧や日用品が不足するということは、ここバギオではなかった。

 

 この6カ月のロックダウンでバギオの住民たちが実感しているのは、いかに自分たちの経済が約250キロ離れたマニラに左右されるかということだろう。バギオでの現在の感染者数は103人(9月14日現在) 。厳しい外出制限と感染者が出た場合の小さな地区ごとのトレーシングが功を奏して見事に抑え込まれているが、経済の方はマニラからの観光客なしにはどうにもマヒ状態である。

 

倒産、商売替え相次ぐ観光業

 

 あんなにたくさんの人を乗せて毎日マニラとの間を行き来していた長距離バスは今も一台たりとも運行されておらず、バギオ―マニラ間を運航していたバス会社最大手のビクトリーライナー(Victory Liner)は400人を解雇。一部のバス車両の座席を取り外し、マニラやそのほか、バスが運行していた路線の町々との間の荷物運送業に鞍替えし、なんとか営業を継続している。

 

 400軒以上あるといわれるバギオの宿泊業は、6カ月もの間休業を強いられている。

 

 バギオで1年のうちで最も観光客が多いのは、2月〜3月のフラワーフェスティバル「パナグベンガPanagbenga」からイースターの長期休暇にかけてだ。パナグベンガに向けて、年末あたりからバギオ中の観光客向けのビジネスは一斉に準備を始める。それがすべて吹っ飛んだ。そして吹っ飛んだままの状態で半年だ。

 

 観光客を対象としていたビジネスは倒産や商売替えが相次いでいる。出前とテイクアウトでなんとか永らえていた中産階級以上をターゲットとしたレストランも、半年もこの状態では息切れして倒れるところが後を絶たない。近所のケーキ屋さんは肉の卸業に変わっていた。ケーキの陳列用ショーケースには肉が並ぶ。店の名前はまだ Bake Me Happyのままだ。

 

 観光エリアの真ん中にできたこの肉屋は、配達やプレオーダーもはじめ、意外に人気を集めている。観光地にあった人気のベジタリアンレストランも撤退し、地元一般住民にも喜ばれるがっつりバーベキューの肉料理中心のレストランに代わっている。こちらももとあった「レストラン」HEALTH101の看板はそのままだ。

こちらは元ベジタリアンレストランからバーベキューレストランへ転身。名前も変わったが、HEALTH101の看板も残っている。

 

 拡張工事が終わり、パナグベンガの時期に華々しくオープンするはずだったSMバギオの店舗の中には、一瞬オープンした後あっという間にロックダウンで臨時休業に入り、今も再オープンしていないところも多い。開いている店も従業員は数少なく、ほとんどの非正規雇用のスタッフは職を失ったことが見てとれる。

 

閉店を余儀なくされた店も多い。

 

バギオ名物古着ナイト・マーケットのオンラインたたき売り

 

 

  いやはや、この状況でバギオの人々は、いったいどうやって生き延びているのだろうか? もう誰も彼もがオンラインでの販売で少しでも収入を得ようと必死だ。バギオの庶民の暮らしの中心だったバギオのパブリック・マーケットの喧騒と混とんが、そのままオンライン上で繰り広げられている。フェイスブックにあるだれでも参加できる物々交換や販売のグループページには、下着から不動産までありとあらゆるものが販売されている。

 

 

 実は「涼しさ」以外はこれといった見どころのない大観光地バギオなのであるが、町の中心・バーンハム公園わきの大通りを歩行者天国にして毎晩深夜まで繰り広げられる「古着ナイトマーケット」は、バギオ経済の一部を支えていたと言っていいだろう。「夜の盛り場」が極端に少ない品行方正なバギオの町で、ナイトマーケットは観光客、そして地元民にとっても重要な夜の遊び場だった。あの混雑も地元のおばちゃんとの値段交渉もアトラクションの一つだった。しかし、このコロナ感染拡大の下では再開に最も遠いのがナイトマーケットといっていいだろう。

 

 古着は全部1点物で、ウェブ上にカタログやショップを作って売るには大変な手間がかかる。そこで最近主流の古着のオンライン販売手段は、フェイスブックを使ったライブ販売だ。もちろん店の名前のフェイスブックページなんて持っていないから、ライブ販売は古着屋のおばちゃんたちの個人のアカウントで繰り広げられる。自宅でスマホをその辺に設置し、段ボールやビニール袋に入った古着や中古のバッグや靴を次々取り出し、自分で身に着けたり見せたりしながらの臨場感たっぷりのライブ販売だ。

 

 見ている人は「それ買った!」「ちょっとまけてよ」「ほかの色ないの?」とか、メッセンジャーにチャットで書き込み、おばちゃんはそのチャットを見て、「じゃあ150ペソにしてあげるよ」なんて返事する。だからおばちゃんの視線はいつもスマホ画面にくぎ付け状態だ。

 

おばちゃんはライブが終わった後、チャットを見直し1人ずつにプライベートメッセージで発送先や支払い方法の業務連絡をする。この回のライブ販売は、1万2,000人が視聴し、1,300人がシェアしている。ちょっとした商業サイトより人気があるかも。

 

 先日、マニラに送る荷物の発送手続きに宅配会社に行ったら、呆然とするほどの長い行列。いったい何をオンラインで販売して発送するのかとのぞいてみると、どうやら洋服らしきものを山ほど抱えている人が多かった。バギオには「洋服製造産業はないのになぜだろう?」と思っていたが、なるほど、古着を売っているのかと納得した。ちなみにこの日は6時間(!)並んだ挙句に、システムダウンで翌日出直すように言われた。オンラインビジネスには体力と辛抱が必要である。

 

バギオならではのグリーンビジネス

 

 マニラでは、外出できない中で新たに観葉植物をベランダや室内で育てる人が急増とか。Plantitas、Plantito、さらにPlantdemicという新造語も生まれている。コロナ禍の収束が見えずに不安が広がり外出制限を続ける中で、すこしでも暮らしに憩いをということだろう。

 

ハッシュタグ「Plantitas」には13万件の投稿。

 

 

 まだまだ緑の多い山岳部のバギオ市にはわざわざ高価な観葉植物を購入する人は少ないかもしれないが、身近な植物を愛する人は多い。バギオ市内でもロックダウン後まもなく植物の物々交換サイトが立ち上がり、殺伐としたロックダウン下でのどかに緑の交換を楽しんでいる様子はあった。

 

 フラワーフェスティバル、パナグベンガの主要な催しのひとつはSession in Bloomと名付けられた、目抜き通りのセッションロードを通行止めにして行う露天市だが、毎年、観葉植物のブースが一部を占める。フィリピン各地にいろいろなフェスティバルがあると思うが、名産品が「グリーン」というのは多分バギオだけだろう。パナグベンガに照準を合わせて鉢植えを育ててきた植物販売業者には、マニラのこの降ってわいたような観葉植物ブームで思ってもいなかったビジネスチャンスの到来だ。さすがに段ボールに入れて宅配便で送るわけにいかないから、前述の宅配会社に様変わりした長距離バスで送る。マニラへの出荷を待つ長距離バスターミナルにいってみたところ、さまざまな観葉植物が荷積みを待っていた。バスが1台もないターミナルは大きな観葉植物をゆったりおいておける十分なスペースがある。

 

バスターミナルの出荷を待つ荷物の中にも観葉植物が。

 

植物泥棒が横行  公園の希少植物

 

 さて、繰り返すがなにしろ経済がほぼ完全に止まって半年である。感染が収まっていないマニラから大勢の観光客が以前のように押し寄せるようになるには、まだしばらく時間が必要だろう。バギオ人たちは、生き延びるのに必死だ。どんな小さなビジネスチャンスも逃したくない。そこで横行しているのが植物泥棒なのだという。

 

 9月10日のバギオ市広報課からの発表では、過熱気味のホームガーデニングブームにより、公園などの公共の施設から植物が盗まれる事態が起きていると注意を喚起している。概略は以下のようなものだ。

 

 

「マインズビューパークとバーハムパークに自生していたモンステラは、ほぼすべて盗難により姿を消した。モンステラは室内の観葉植物として高額で販売されている植物である」

 

 

「また市役所公園の多肉植物のサボテンが盗まれて売り払われ、アッパーセッションロードの緑地帯にあったゴムの木も抜き取られていた。両種とも植物市場で人気のあるものである」

 

 

「公共の施設での許可のない植物の採取は違法であり、違反者は市の環境法5,000ペソの罰金、または5日以上の懲役、またはその両方が科せられる。植物が絶滅危惧種(アロカシアの特定の種など)に属している場合は、野生生物資源保全保護法等の違反で、6年から12年の懲役と10万から100万ペソの罰金が科せられる」

 

 

 市の公園課はバランガイ職員などとともにパトロールを強化していくとのことだが、オンラインビジネス加熱の影響はこんな思わぬところにも出てきている。それでも泥棒されるのが「植物」でいいとするべきか、平和で治安の良さが売りだったバギオの人もいよいよ行き詰っていると判断するべきなのか。

 

 
 バギオ市内で撮影された「植物泥棒」の様子。フェイスブックに投稿された
 
 
 
 ホームガーデニングブームの影響は、山の村にも波及している。9月中旬、久々にコーヒー産地のトゥブライ町の農園と農政課に行って聞いたところ、山の村では住民がみんな森に行って売れそうな植物の採取に懸命なのだそうだ。農政課の職員は「これは一時的なブームです。野菜生産をやめてはいけませんよ」と説得を続けているとのこと。しかし、この観葉植物&サボテンブームのおかげで、生きながらえているのも事実だと認めていた。

 

 バギオ市政府は9月22日から近隣の州(ラ・ウニオン州、パンガシナン州、南イロコス州、北イロコス州)からの観光客の受け入れを再開すると発表した 。しかし、近隣の町村からは、バギオ市の一方的な判断に非難の声も上がっている。山岳部にあるバギオ市にパンガシナン州などマニラ方面から入るにはトゥバ町を通過する必要がある。また、ラ・ウニオン州や南北イロコス州から入るには、サブラン町、ラ・トリニダード町を経由しないと行けない。経済に行き詰りつつあるバギオ市にとって観光業の再開は必須であるが、農業が主な生計手段であるトリニダード町、トゥバ町にとっては、感染リスクが高まるだけで、経済的なメリットは小さい。

 

 観光客であふれるバギオの復活にはまだしばらく時間がかかりそうだ。

 

 

反町 眞理子さん

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

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