ハロハロ・ノート「バロン・タガログ」

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2020年3月10日

第39回 Barong Tagalog

 

 バロン・タガログはフィリピンの正装で、華やかで風通しも良いので、結婚式や式典に参加する時などに一着持っているととても便利です。バロン・タガログは本来、衣装、シャツという意味のBaro(バロ) とTagalog(タガログ)の二つの言葉を-ngで繋げたもので、「タガログ人の衣装」という意味でした。しかしその名称が一般的になりBarongだけで使われるようになったため、今ではバロンと言えば、バロン・タガログを指すようになっています。

 

 フィリピンがスペインの植民地だった頃は、現地のフィリピン人はIndioと呼ばれていましたが、彼らが武器を衣類の下に隠すのを防ぐため、下が透けて見える服を作らせて着せたという説があります。しかし実は、スペイン人が到来した頃には、すでに現地の人たちはcangaと呼ばれる長めのシャツを着用していたという記録があり、これがバロンの原型となったという説が有力です。

 

 またバロン・タガログは中南米で着られるグアヤベラによく似ていますが、これはガレオン貿易により、バロンがフィリピンからメキシコに渡ったものが、さらにキューバに渡り、現地で入手しやすい綿や麻で作られるようになったためだと言われています。

 

 バロンに使われる布地にはいくつかの種類があり、パイナップルの葉の繊維から作った「ピーニャ」は一番手間がかかる希少素材のため最も高価です。繊維は少し黄みを帯びており、繊維の太さは均一ではなく、透明度の高いのが特徴です。この他ピーニャと絹で織ったピーニャ・シルクやコクーン・シルク(cocoon silk)とかフースィ(jusi)と呼ばれる絹の素材、あるいはバナナの仲間であるアバカ(マニラ麻)で織った布などが盛装として好まれます。数回しか使わないのであれば、オーガンザ(organza)という合繊の物なら安く入手可能です。どれも透ける生地なので、丸首で上部がボタン開きになっている下着用のシャツ「カミサ・デ・チノ(Camisa de Chino)」(「中国風のシャツ」の意味)の上から着用します。

 

 この他にGusot mayaman(グソット・マヤマン)と言う、透け感のないバロンがあり、オフィスなどで日常的に着用します。グソットとは布のシワのことで、マヤマンとはお金持ちのこと。最近は殆どがポリエステルなどの合繊ですが、麻などシワになりやすい素材で作られることが多かったので、お金持ちが普段使いする、すぐシワになる服、とでもいう意味だったのでしょう。

 

 盛装で使うバロンの布地には、あらかじめCalado(カラド)と呼ばれるレース加工や、burda (ブルダ)と呼ばれる豪華な刺繍がほどこしてあります。カラドはパイナップル繊維やアバカ繊維から作られた織物に、デザイン通りにハトメで穴を開け、糸で縫い付けていく気の遠くなるような細かい作業です。またブルダ(刺繍)にも機械刺繍のものと手作業の物があり、こちらもパターンに基づき熟練した職人が刺繍を施していきます。細かい手作業を何時間もかけて行うため、高価になるのは当然だともいえるでしょう。これらのカラドや刺繍のパターン、襟のサイズ、身頃の形なども実は男性のネクタイや襟と同様、流行があるので、数年に一度は作り直す方が良いでしょう。

 

 ちなみにフィリピンの人に聞いてみたところ、背広のようなスーツを着た人にはなんとなくよそよそしいイメージがあるそうですが、バロン・タガログはフォーマルながら親しみを感じ、好印象だそうです。皆さんもぜひテーラーメイドのバロンで印象アップを狙ってみてはいかがでしょう。(悦)

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