何よりもコメを愛す

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2020年10月20日

 「ご飯を食べなかったら、食事をした気がしない」。フィリピン人がこう言うのを聞く。朝、昼、晩、3食ライスを食べ、間食のメリエンダに麺などを食べる。フィリピン人の同僚が家から持ってくる弁当には必ずたっぷりご飯が入っている。おかずの量よりも、ご飯が圧倒的に多い。サンドイッチなどパンをランチに食べているのをあまり見たことがない。ファストフード店にもライスのメニューがある。フライドチキンにライスはおなじみだが、数年前マクドナルドにフィッシュアンドチップスならぬフィッシュアンドライスがあった。10代〜20代の若いフィリピン人は毎食2〜5杯のご飯を食べるそうで、店によってはご飯食べ放題のところもある。フィリピンのコメの年間消費量は1,290万トン(2020年5月/農務省)で、日本の713万トン(需要実績2019年7月〜2020年6月/農林水産省)よりはるかに多いのも納得。フィリピンは国内のコメ生産が需要に追い付かず、世界最大のコメ輸入国といわれるのもわかる。

 

フィリピンでおなじみのカップの形で出てくるご飯

 

 日本人が海外にいて米食から離れていると、ご飯が恋しくなることはあるだろう。しかし、フィリピン人ほどにご飯への愛情というか、執着はあるだろうか。昔、ハノイでベトナム人の女性の友人と夕食にイタリアンを食べて店を出てから、友人が「ブン(米の麺)を食べたい」と言い出した。パスタやピザを食べたのに、ベトナム料理を食べないと食事をした気がしないとでも言いたいようで驚かされた。これがフィリピン人の場合だったら、フィリピン料理でなくてはダメというより、ご飯がなくてはダメということになるのだろう。

 

 

 No Rice , No Life とでも言いそうなフィリピン人にとって、ご飯ならどんなコメでもいいというわけではない。農務省によれば、今フィリピン人に人気なのは味がよく、料理すると香りが引き立ち、細長い形状のコメで、しかも手ごろな価格のコメなのだそう(2020年10月15日・デイリートリビューン)。日本のコメを食べた感想をフィリピン人の友人に聞いたところ、「粘り気が強くて、すぐおなかにたまって、たくさん食べられない」と言われた。それは腹持ちがよく、いいことだと思うのだけれど。

 

 

 フィリピンにはアジアの中でも、その歴史的背景から、西洋化あるいはアメリカナイズされた文化がある。米国発の外食産業がほかの東南アジアよりも幅を利かせているように思う。しかし、一方で米食をこよなく愛するという点では、フィリピンはアジアらしさも忘れていないということか。経済的な理由からご飯偏重の食事で効率よくお腹を満たすという面もあるかもしれない。けれど、周りのフィリピン人を見ていると、本当に米食が好きなんだなと思う。フィリピンで糖質ダイエットブームでご飯抜きの食事をする人が増えたり、コメ離れが深刻になったりすることは当分なさそうだ。(W)

 

(初出まにら新聞2017年4月20日付け再編集)

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